シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

桐朋中学校

2016年11月掲載

桐朋中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.日常の中で「考える」ことはたくさんある

インタビュー1/3

経験したことを素通りしないで考えよう

香川先生 この問題のように、本校は自分の考えを記述する問題を出しています。実は10年以上前にもこのような形式の入試問題を出しており、今回が初めてではありません。例えば平成14年度には、「君自身は『親切』ということについてどのように考えますか。自分が体験したことを例にしながら詳しく述べなさい」という問題を出しました。
受験生には受験勉強一辺倒ではなく、友達や家族との関係など日常で経験するいろいろなことについて、「考える」ことをしてほしいと思い、この問題を作問しました。「考えて」と言われてもすぐに考えられるものではありません。受験生が日頃から考えることをしているかどうかは答案から伝わってきます。

国語科/香川 智之先生

国語科/香川 智之先生

新しい視点をぶつけて受験生の反応を見る

香川先生 いまのお子さんは、「失敗してもいいからやってみよう」ということは言われていると思います。けれど本文にある「絶対に成功させるつもりでやったときの失敗」は経験していないだろうし、聞いたことも考えたこともないでしょう。「予期しなかった失敗」という新しい視点にぶつかったとき、受験生がどのように考えたかも聞いてみたいと思いました。受験生は、これまでの失敗の経験を振り返り、失敗をどのようにとらえたか、フル回転で考えたと思います。

原口先生 この問題のような文章記述は、読解した内容を自分の問題意識と関連させて、考えたこと、感じたことを自分なりに表現してほしいと思っています。

「失敗の特徴」の説明が得点の最初の関門

香川先生 文章記述の採点は、まずある程度答案を見てから、平均点が配点の半分くらいになるような基準を定めてから採点します。この問題の平均点は配点の半分を超える程度で、満点の解答は2~3人だったと思います。
どちらの失敗を選んでもいいのですが、失敗の特徴をきちんと説明していること。これが最初の関門ですが、説明が不十分な解答が見られました。「想定内の失敗」であれば、「失敗は仕方がないけれど、やらなければ何も始まらない。チャレンジしたことに意味がある」といったことを説明します。
自分が経験した失敗は、具体的に、失敗の特徴や自分の意見とつながるように書きます。そして、いまの判断としてどちらの失敗が大切か書けていることです。もちろん、文章として整っていることも大切です。

桐朋中学校/図書館

桐朋中学校/図書館

未経験の「予期せぬ失敗」で得られるものを想像する

「予期しなかった失敗」を、受験生はどのようにとらえていましたか。

香川先生 そうした経験がないせいもあってか、頭になかった失敗を受け止めなければならない厳しさ、つらさをとらえきれていませんでした。想定内の失敗をした例を挙げて、その失敗の意味(特徴)までに留まった答案が多かったです。
中には、読解したことを自分に置き換えて考えたとわかる答案がありました。例えば「今までの自分の失敗は、『失敗してもいい』という軽い気持ちでやったときの失敗だった。この文章を読んで、『予期しなかった失敗』があることを知り、その失敗から立ち直ることができたら自分はもっと成長できると思う」という答案は、自分と向き合って考えているな、普段から考えているのだろうなと思いました。
また、「私には『予期せぬ失敗』で悔しい思いをした経験は今のところない」と書き始めて、「もし、自分がそうなったら…」と続けた答案がありました。このように、この問題はいろいろな書き方ができます。

原口先生 新しい視点と出会うことで、子どもたちがこれまでの自分の体験の意味を深めることができればいいなと思います。

文章を読んで気づいたことが投影されていい

受験生が挙げた「失敗例」はどんなものがありましたか。

香川先生 「友達とけんかをして傷つけた」という例が結構ありました。それは自分のことを一番しっかり見つめていた例だと思います。
「テスト」を取り上げた受験生が多かったのは、ちょっと残念に思いました。受験生の日常として「テスト=失敗」が真っ先に浮かぶのは仕方がないのかもしれませんし、テストのことを書くのが悪いわけではありません。ただ、ほかに生活の中で「考える」出来事がないのかなと思いました。

原口先生 普段から体験したことの意味を考えていないと、例を挙げても、残りは本文をなぞることしかできなくなります。入試対策というよりも、日常生活の中で体験したことを見つめる力が養われているといいと思います。

設問に「君自身は今~」とあるのは、普段から考えることをしてほしいという貴校の思いを感じます。

香川先生 さらに言えば、この文章を読んだばかりの「今」でもあります。解答は、この文章を読んで気づいたことが投影されていいのです。

桐朋中学校/図書館

桐朋中学校/図書館

「くわしく」「わかりやすく」は書き方のヒント

香川先生 文章記述は, 本文を切り貼りするのではなく、「自分の言葉で書く」ことを課しています。
「くわしく書きなさい」「わかりやすく書きなさい」という設問の指示は、本校の特徴かもしれません。具体的に、いろいろな角度から説明することに主眼を置く問いは「くわしく」と指示します。
「わかりやすく」というときは、どちらかというと、本文の内容が込み入っていて真意がつかみにくいものをとらえ直すときに用います。その場合は、要点を拾って整理して表現します。
こうした設問の指示は「しっかり考えて答えてほしい」ということであり、記述する際のヒントになると思います。

桐朋中学校/図書館

桐朋中学校/図書館

インタビュー1/3

桐朋中学校
桐朋中学校1941(昭和16)年、財団法人・山水育英会(山下汽船社長の山下亀三郎の基金を基に設立)を母体に第一山水中学校を創立。戦後、山水育英会を解散して桐朋学園を組織、47年桐朋第一中学校とする。翌年に高校が発足し、桐朋中・高等学校と改称した。現在は同じ敷地に小学校から高校までがある。
一人ひとりの生徒を、豊かな心と高い知性をもつ創造的人間として育成することに力を注いでいる。真に有為な良き社会人になるために、地球的視野に立ち、自立した人間として、自己を生かすとともに他者を生かす、このような人間形成を目指しているのが21世紀の桐朋教育。よって教育目標は、「自主的態度を養う。他人を敬愛する。勤労を愛好する」である。
一橋大学を中心とした国立の文教地区にある。自然林の緑に囲まれた2万3千坪の敷地に、2016年、新校舎が完成した。本物に触れるための天文ドーム、各種実験室、プラネタリウム等の専門用途の施設が充実している。6万5千冊の蔵書をもつ図書館は、DVD500本も揃え、生徒の利用頻度が高い。総合体育館は、種目に合った床ダンパーにより運動ストレスからの障害を予防する配慮がされ、視聴覚設備の整った保健教室も備えている。
オリジナル教材やプリントを使いながら系統的に理解し、思考力と表現力を伸ばす指導が特徴。英語は『ニュートレジャー』を使う。英語は外国人教師による会話練習や海外とのEメール交換、理科は実験・観察、社会は社会科見学などで理解を深めている。選択制の段階別授業は高校の英語総合、数学などで実施。中1から、夏休みや平常時に指名制補習もある。テーマ選びから始める夏休みの自由研究も大きな成果を上げている。高校からの入学生とは高1で混合。高2からも文系・理系のクラス分けはぜず、選択科目で自分に合った学習をする。
「行事は生徒が創る」という方針で、修学旅行、遠足、運動会、学園祭など多くが生徒の企画・運営で行われている。自主性尊重は進路指導にも生かされ、在卒懇と呼ばれる懇談会で、卒業生に仕事選択の動機などを聞く。高2の在卒懇では大学で教鞭を執る先輩から学部の内容やその選定のアドバイスを聞き、高3での大学選択につなげる。クラブ活動も盛んで中学生は9割以上の生徒が加入。サッカー、バスケットボール部などの活躍は有名。特にサッカー部・バスケットボール部は中高とも都内トップレベル。陸上競技、野球、オリエンテーリング、囲碁・将棋なども優秀な成績を収めている。高校は制服なし。