シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

浅野中学校

2016年10月掲載

浅野中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.砂時計の砂の動きを想像し、柔軟に考えて答えを導き出す力をつけよう

インタビュー1/3

試行錯誤が問題を解くカギ

この問題の出題意図からお話いただけますか。

松岡先生 この問題は、問題をしっかり理解して、考えて、試行錯誤しながら答えにたどり着く問題の1つです。

原田先生 ご指摘のとおり、算数の知識はあまり必要としません。類題もあまり目にしません。それでいておもしろい問題だったので出題しました。砂時計が斬新ですし、問題文が「6分よりも長く計れる」というくだりから始まります。私がおもしろいと思ったのは、何分計ろうが答えが変わらないところ。「10分まで計れる」と表現することもできましたが、あえて時間を定めず、「6分よりも長く計れる」と表現したのは、受験生が「ひょっとしてこれで答えが決まるのかな」と、戸惑うかもしれないと思ったからです。この問題はそんなに難しい問題ではありませんが、試行錯誤をしないと答えは出てきません。ですから、典型的な問題しかできない受験生は立ち往生したのではないかと思います。

数学科主任/松岡秀夫先生

数学科主任/松岡秀夫先生

文字を使うとわかりやすい

原田先生 文字を使うと、何分計っても答えは変わらないということが明快に説明できます。小学生に文字式は馴染みがないと思いますから、文字を使わなくても解けるように出題していますが、中学生になれば学ぶので、「文字を使うと明快に説明できるんだよ」ということを知ってもらいたいという思いも込めています。
たとえば、全体をx、あるいは6+xと表現しても構いません。砂時計の図はありませんが、砂の動きを想像しながら量の変化を書いていけば、自然と答えにたどり着くことができます。式を使って解くような問題ではありません。経過を追えるかどうかを見る問題です。

木村先生 文字を置いてもいいですし、6+○、6+□でもいいと思います。もちろん7分とか8分とか、仮置きの時間を設定して解いても時間(答え)は変わりませんので、その方法でもいいと思います。

小問集合の中では異質の問題

大問2は小問集合です。7問中、(5)と(7)の間にこのような問題を置いたのはなぜですか。

原田先生 (この問題を)どこに置くかは迷いました。小問集合の中では異質の問題で、手こずることが予想できたので最後に置くことも考えましたが、計算量はそれほどでもありません。一方(7)の問題は計算量があります。図も書かなければいけません。この問題と(7)を比べた時に、解くための時間が必要なのはこの問題よりも(7)だろうと考え、このような並びにしました。

木村先生 こうした試行錯誤をする問題は、過去にも出しています。たとえば、平成26年の大問5です。8リットルの油を、5リットル、3リットルの容器を使って2等分の4リットルに分けるには、何回操作をするかという問題です。

これも4リットルの容器がないので、受験生はとまどったのでは?そういう意味では、今回の問題と似ているかもしれませんね。

一同 そうですね。

数学科・情報科/木村彰宏先生

数学科・情報科/木村彰宏先生

日常生活の中にあるものも題材に

平成27年はかくれんぼの問題や携帯電話の問題、平成25年は回転寿司の問題を出題しています。特別な意図があるのでしょうか。

木村先生 日常生活の中にあるものを算数的、数学的な思考でとらえられるかどうかを見たいと思って出題しています。回転寿司の問題は、実際に店に行った時にひらめきました。「これだ!」と思ったので、すぐに動画を撮ってだいたいの速度や速さの比率、皿の大きさなどを把握して問題を作りました。ですから、実際に近い設定になっています。

原田先生 2つのものが同時に動くのがミソですよね。物理のような内容(相対速度)ですが、おもしろいと思った問題の1つです。

木村先生 入試問題ですが、できれば遊び心があり、楽しんで解ける問題を出したいと思っています。

昨年のねじれの問題もおもしろかったです。

松岡先生 大問4ですね。あまり出題されていない立体でしたよね。

木村先生 あれは関西の灘中あたりでは出題されていますが、関東圏ではほとんど出題されていない形です。出題意図としては、よく出ている、見慣れた図形ではなく、初見の図形を見た時に想像して考えることができるかどうかを見たいと思って出題しています。

過去10年分の問題を見て、思ったのは、問題文がとても読みやすいということ。そこにも気を配っているのでしょうか。

松岡先生 そうですね。受験生が取り組みやすいように、何度も見直しをしています。

問題冊子にどんどん書き込んで考えよう

平成23年の最後の問題(電球で照らした影はどうなっているか)は、「難しそうだな」と思った受験生もいたと思いますが、丁寧に作図をしていくと、小さな円の外側に大きな円が4つ見えてきて感動しました。

木村先生 大問の中の小問設定も、ストーリー仕立てになっています。電球の問題では、まず長さの比率がわかるか。次に面積の比率がわかるか。そして、固定された図形を動かしたら、どのように変化するかというように、順を追って解いていけるように工夫しています。

原田先生 大問の場合、最後は難しいところまで聞くのですが、いきなりそれを問うのではなく、木村が話したようにステップを踏んで出題するようにしています。そのステップも単純な計算ではなくて、次の問題を解く上で役立つようなものを用意しています。ですから、誘導にうまく乗ってほしいのです。問題冊子も書き込むことを前提に作っていますから、ここに書き込みながら試行錯誤して答えを見つけてほしいです。

浅野中学校

浅野中学校

出来はあまりよくなかった

問題は、複数の先生が持ち寄る形ですか。

原田先生 そうです。教科全体で問題作成しています。今回の砂時計のような問題ばかりだと、その場で思いついた受験生と、思いつかなかった受験生との間で差がついてしまうので、本校では典型的な問題もしっかり出すようにしています。ですから、今回のような問題が出てくると、出すかどうか必ず議論になりますが、今回の問題はなかなか出題されない問題なので、1問くらいこうした問題があってもいいだろうということで出すことにしました。

松岡先生 1つ懸念したのは、(受験生が)砂時計を見たことがあるかということでした。

見たことはあると思いますよ。

一同 それならいいのですが……。

この問題の出来はいかがでしたか。

松岡先生 小問集合の中では正答率が高いほうではありませんでした。

原田先生 大問2の中ではやや難しい問題でしたが、合格者と不合格者との間で差はついています。ほとんどの受験生ができなかった、という問題ではなく、この問題ができた受験生が(合格に)有利になった問題といえるので、出題してよかったです。

インタビュー1/3

浅野中学校
浅野中学校1920(大正9)年、事業家・浅野總一郎によって創立。当初はアメリカのゲイリー・システムという勤労主義を導入し、学内に設けられた工場による科学技術教育と実用的な語学教育を特色とした。戦後間もなく中高一貫体制を確立し、1997(平成9)年に高校からの募集を停止。難関大学合格者が多い進学校として知られているだけでなく、「人間教育のしっかりした男子校」としても高い評価を受けている。「九転十起・愛と和」を校訓とし、自主独立の精神、義務と責任の自覚、高い品位と豊かな情操を具えた、心身ともに健康で、創造的な能力をもつ逞しい人間の育成に努めることを教育方針とする。校章は、浅野の頭文字で「一番・優秀」の象徴である「A」と「勝利の冠」である「月桂樹」から形作られており「若者の前途を祝福する」意味が込められている。
横浜港を見下ろす高台にある約6万平方メートルの広大な敷地の約半分を「銅像山」と呼ばれる自然林が占めている。Wi-Fi環境が整い、中学入学後に購入するChromebookで授業や行事、部活動を展開している。2014(平成26)年には新図書館(清話書林)、新体育館(打越アリーナ)が完成、2016(平成28)年にはグラウンドを全面人工芝とし、施設面が充実している。
中高6年間一貫カリキュラムを通して、大学受験に対応する学力を養成することが目標。授業を基本とした指導が徹底している。中学の英語では週6時間の授業に加えて、毎週ネイティブスピーカーによるオーラルコミュニケーションの授業もある。数学では独自の教材やプリントが使われていて、中身の濃い授業が展開されている。高校2年から文系・理系のクラスに、高校3年では志望校別のクラスに分けてそれぞれの目標に向けた授業を行う。進路選択は本人の希望によるが、理系を選択する生徒の方が多くなる傾向がある。全体的にハイレベルな授業が展開されているが、高度な授業展開の一方で、面倒見のよいことも大きな特徴。授業をしっかり理解させるために、宿題・小テスト・補習・追試・夏期講習などを行い、授業担当者が細かく目を配っている。一歩ずつゆっくりと、しかし、確実に成長させるオーソドックスな指導方針が浅野イズム。
「大切なものをみつけよう」ーこれは学校から受験生へのメッセージ。生徒にとって学校は、一日の内の多くの時間を過ごす場所。勉学に励むことはもちろん、部活動や学校行事にも積極的に参加して、その中で楽しいこと、嬉しいこと、悔しいことや失敗をすることも含めて多くのことを経験してもらいたいと考えている。学校でのそのような経験が、学ぶことの意味、みんなで協力することの大切さと素晴らしさ、生涯、続いていくような友人関係、そして、決して諦めない強い心を育んでいくことになる。浅野中学校、高等学校という場を思う存分活用して、人生において大切なものをたくさん見つけ、成長してほしいとの願いが込められている。
部活動と学習を両立させる伝統があり、運動部の引退は高校3年5~6月の総合体育大会、野球部は甲子園予選までやり通す。中学では98%の生徒が部活動に参加している。ボクシング、化学、生物、囲碁、将棋、ディベート、演劇が全国レベル。柔道、ハンドボールやサッカーも活躍している。また、5月の体育祭と9月の文化祭を「打越祭」として生徒実行委員が主体となって運営する。これをはじめ、学校行事も盛んで生徒一人ひとりが充実した学園生活を送っている。
「銅像山」は、傾斜がかなりきつく、クロスカントリーコースとして運動部の走り込みに使われるだけでなく、中学生たちの絶好の遊び場所となっている。また、各学年のフロアに職員室を配置してオープンにすることで、生徒と学年担当の先生が日常的に対話を行っている。こうしたメンタルケアにも力を入れている。