シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

逗子開成中学校

2016年09月掲載

逗子開成中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.社会の出来事には必ず因果関係がある。だから「なるほど」「そういうことか」と腑に落ちる授業を徹底。

インタビュー2/3

入試問題の作成は複数の教員で話し合うことから始まる

全体にかかるリード文には時事的な内容も含んでいますが、いつ、どのようにして作っているのですか。

小和田先生(社会科主任/教科研究委員長) 本校では入試を3回行っています。今回のような1つのテーマに基づき、分野にかかわらずリード文を作り、ランダムに聞いていく形式は1次試験に採用することが多く、2次、3次試験では、地理的分野、歴史的分野、公民分野に分けて、出題しています。問題作成にあたっては、早い段階で、担当する教員の興味関心や、日本・世界の流れなどを話し合います。それぞれの興味関心や方向性を共有しておかないと、それぞれの問題文のテーマがバッティングするからです。3つの分野を総合する試験のリード文のテーマを確定したうえで、その他の試験の問題文のテーマを決めていきます。

社会科主任/小和田亜土先生

社会科主任/小和田亜土先生

基本は勤勉度をはかれる問題

小和田先生 私たち自身が興味関心をもっていて、これから中学生になる子たちにも関心をもってもらいたいテーマを、メッセージとして問題づくりに込めています。出題の仕方で気をつけているのは、勤勉度をはかれる問題であること。子どもたちがどのくらいきちんと勉強してきたかを見たいので、奇をてらった問題よりも、学習してきた成果を発揮しやすい問題を出すように心がけています。

ただ、そういう問題ばかりだと、『地球温暖化』といえば『二酸化炭素の増加』というように、なにも考えず答える習慣が身についてしまうので、初見の資料などを読み取る力、知識と知識を結びつけて考える力を問う問題も出したいと考えています。今年は3次の中で2問ほど、ふだんの勉強ではお目にかからないような資料を読んで要約する問題を、新しい試みとして出しました。今後もその場で対処できる力も見たいと思っています。

論述の問題を出す以上、考える時間を取らなければなりません。そこで小問の数を段階的に減らしています。これまで1次試験(40分)では65問くらい出していましたが、現在は50〜55問程度です。

問題数を減らして効果はありましたか。

小和田先生 論述用解答欄の白紙が減りました。何かしらは書いてくれるので、採点も段階別にし、よりよい選抜ができていると思います。

入学後は『社会科は暗記科目』という概念を根本から覆す

入学後の授業で心がけていることを教えてください。

小和田先生 受験勉強では与えられた教材をきちんとこなす、ということを大前提に頑張ってきていますから、基本的な問題を出して、どこまでできるかということで合否を決めていますが、入学後は、知識の習得ばかりが社会科の学習ではない、ということを意識して、授業を行っています。生徒がもっている「社会科は暗記科目」という概念を根本から覆すのは並大抵のことではありません。先ほど、選挙の話が出ましたが、授業を通して得た知識と、自分の生活経験との結びつきを実感できるような話をしたり、プロジェクターを使い、グーグルマップを活用したり、画像を見せたりして、腑に落ちる授業を心がけています。

たとえば世界四大文明の歴史では、エジプト文明やメソポタミア文明に共通することとして、河川の氾濫があります。氾濫が引いた後、上流の豊かな川底の土を下流周辺にまき散らし、農作物に適した土壌がつくられるということは知識として知っていますが、グーグルマップでナイル川あたりの画像を拡大したり、縮小したりして見せると、砂漠の中に緑の線がきれいに見えます。河川の周辺には緑があって、その両サイドが砂漠になっている画像を目の当たりにすると、「なるほど。特殊な地域なんだな」と腑に落ちるのです。

また、特に中学では地理、歴史、公民という枠組みにとどまらず、地理や公民の授業でも歴史的な背景を話したりして、生徒の興味を引くようにしています。単なる情報と思われるものが、ある文脈の中に入れてみると価値ある知識だったことがわかる。そういうことを大事にしています。

逗子開成中学校 古墳パノラマ案内板

逗子開成中学校 古墳パノラマ案内板

いかに興味深い話ができるか。そこが腕の見せどころ

先生方も、専門に関係なく授業を受け持つのですか。

小和田先生 そうですね。鈴木先生は現在高3の学年主任ですが、中1から6年間持ち上がりなので、すべての分野の授業を担当してきています。多くの教員がいろんな学年の様々な科目を教えています。ですから、そのつど、自分がおもしろいと思えることを探していかないと、生徒に伝わりません。日々ネタを集めるのは大変ですが、おもしろいところでもあります。

鈴木先生 歴史なら今と昔の比較や、因果関係の説明を必ずします。どの出来事にも原因があり、経過があり、結果があります。それを知っていれば、「江戸幕府を開いたのは誰?」と聞かれて「徳川家康」と答えられるのはもちろんのこと、「徳川家康は何をした人?」と聞かれても答えられるはずです。ところが暗記だけだと、後者の問いには答えられません。

中1から高3までもつのは2回目ですが、授業の中で因果関係を説くことを心がけてきたせいか、6年前と比べると、歴史が嫌いという子は減っている気がします。

知識を活用できる力をつけてほしい

鈴木先生 自分がおもしろがらないと子どもたちに伝わらないので、高3の授業でも授業の最初に新聞やネットに出ていた内容に触れてから授業に入ります。たとえば文化史など、授業で取り上げてもおもしろみのないものは家庭学習にして、その分、政治や経済など、因果関係が伴うテーマに時間を割くなどの工夫もしています。

授業にメリハリをつけると、生徒は聴く耳をもつようになります。メモを取り始める生徒もいます。地理を担当した時に、ナイル川が氾濫すると言ってもイメージが涌かないので、日本の河川の氾濫は人々に被害を与えるが、ナイル川は恵を与える。両者を比較しながら話をすると興味をもってくれました。もともとの能力のある子ばかり。知識偏重ではなくて、自分で考える力。あるいは、聞いた話を、別の知識と結びつける力を身につけさせたいと思っています。

逗子開成中学校 洋楽を通じて英語に親しむ

逗子開成中学校 洋楽を通じて英語に親しむ

ノートの使い方を指導

生徒さんが自らメモを取るとは素晴らしいですね。

小和田先生 中学時代は、全クラスに共通したプリントを使っています。ところどころに( )を設けて、重要語句を記入させるというものです。合わせて、ノートの使い方を指導しています。今の話のように、いろいろな観点から話すので、ただ、( )に重要語句を埋めるだけではなくて、「ノートの片方のページにプリントを貼り、もう片方のページに授業でおもしろいと思ったことや疑問に思ったことを書くと、オリジナルのノートができるよ」というように促しています。

ノートを回収して点数をつけることはありませんが、生徒の様子を知りたいので、回って見て、よく書けているものはコピーして配るようにしています。友だちのノートを見て、「こういうふうにノートを使ってもいいんだ」と思ってくれれば、自然と工夫するようになります。固定概念を捨てることから始めて、多様な使い方ができるようになってくれればいいと思っています。

強制はしないのですね。

小和田先生 「書きなさい」と言うと、まじめな子はすべて書き取ろうとするので、「今は書かないでいいよ」「重要だと思ったことだけ書きなさい」などとアドバイスすることはありますが、強制はしません。高校生になるまでには、早かれ遅かれ先生の話を聞いてメモが取れるようにはなっていきます。

インタビュー2/3

逗子開成中学校
逗子開成中学校1903(明治36)年創立の神奈川県下最古参の男子私立中学校。東京の開成中の分校「第二開成中」として設立されたが、ほどなく独立。中学募集は一時中断したが、86(昭和61)年再開。近年の目覚ましい学校改革の試みは、バランスのとれた学校像の確立を目指すものとして注目されている。2003年(平成15)年に創立100周年を迎えた。
建学の精神『開物成務』にのっとり、「真理を探究し、目標を定め、責務を果たす」ことのできる人材の育成が教育の目標。レベルの高い学問を修めさせると同時に、独自の海洋教育や映像教育、コンピュータ教育等を駆使し、国際社会で活躍すべく、単なる進学校にとどまらない21世紀の新しい教育の創造を目指している。
逗子海岸に臨む校地には、ヨット工作室や宿泊施設もある海洋教育センター、本格的映写機と音響システムを備えた徳間記念ホール、コンピュータ棟やセミナーハウス、研修センターなどの充実した各施設が並ぶ。自習室も完備している。教育環境を見事に整備し、高い塀を廃した開放的な発想から、世界にはばたく人材が育っていく。
逗子開成の授業には演習が多く取り入れられている。問題を解く力や表現する力を、すべての教科・科目で身につけ、バランスのとれた基礎学力を育成している。学年によって教科、レベルは異なるが、習熟度別授業を実施。補習だけでなく、通常授業の効果をさらに上げる「特習」もある。中3から選抜クラスが新設され、学年ごとに入れ替えがある。高2からは文系・理系にコース分けをする。土曜日には各種講座や行事を実施するが、教師、保護者、生徒の好奇心がぶつかり合う土曜講座は進学・世界・体験・達成・地域の5分野100講座以上とバラエティ豊か。
中1の時にヨットを製作するのは有名で、中3までの全員が逗子湾で帆走実習を行う。海洋教育と並び映像教育をも柱とする同校では、年5回映画鑑賞会が行われており、学校にいながらにして名作を鑑賞できる。中3では全員がニュージーランドに。高2の研究旅行はマレーシア・ベトナム・韓国・沖縄・オーストラリアのコース選択制で実施。中2~高2の希望者にはフィリピンセブ島の英語集中研修、1週間のエンパワーメントプログラムのアメリカ研修、3ヶ月間の短期交換留学、1年間の海外長期留学がある。また、中1・中2では、校内における異文化英語プログラムなどがあり、語学以外に様々な体験ができる。奉仕活動にも熱心。