シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

横浜女学院中学校

2016年09月掲載

横浜女学院中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.世界で起きている問題を考え、解決して、新しい社会を作れる人へ

インタビュー1/3

解決方法を考える問題

出題の意図から教えてください。

吉田先生 昨年から本校は文部科学省のSGH(スーパーグローバルハイスクール)の指定校となり、ESD教育も今年から導入しています。ESD教育とは、ワークショップやフィールドワークを通じて、問題に気づき、分析し、解決策を考え、行動していく学びのこと。それに連動した入試にしたいと思い、今回のように問題の解決方法を考える問いを出題しました。

受験生のどんな力をみたいとお考えでしょうか。

吉田先生 国語の知識だけではなく、発表できる能動的な力をみたいと考えています。本校の授業では“発表する力”、すなわち、書く力、話す力をつけることを大切にしています。話す力は入試では見られませんので、書く力をみるために100字の記述式問題にしました。

100字にこだわった理由などはありますか。

吉田先生 大学受験の小論文などでも、問題点・原因・自分の意見を書くといった形が一般だと思いますが、だいたい一つの要素を述べるのに20~30字と想定し、受験生が構成を考えながら自分の意見を書くのに100字が適当だと考えました。

解答のレベルはいかがでしたか。

吉田先生 この記述問題は、途中点を3・3・3・1点に分けた10点問題でした。不正解を恐れずに取り組む生徒を評価したいと思うので、90字以上書けていれば途中点を設け、1点を加算しています。10点はほとんどいませんでしたが、多くの受験生が自分の意見を書けていましたね。

点数の内訳を教えていただけますか。

吉田先生 本文にも繰り返し出てきますが、まず、見に行く、会いに行くなど「実情を知る」ことに3点、これは著者の例でも繰り返し出てくるので書けた受験生が多かったです。次に、自分だけで何かをするのではなく、人権が守られていないことに「声をあげる」ということに3点。そして、「具体的な行動」をとることに3点です。また、「90字以上」なら1点を加点なので、「実情を知る」と「具体的な行動」のどちらかと「90字以上」で、計4点という回答が多かったですね。

この文章の趣旨は「人権意識が希薄なことに問題がある」ことなので、人権が守られていないよと声をあげることが大切です。その要素を理解できなかった受験生が多かったと思います。

国語科主任/吉田峻先生

国語科主任/吉田峻先生

受験生に、ぜひ考えてほしい内容を出題

入試問題を作るうえで、大切にしていることを教えてください。

吉田先生 今回の出題文のテーマでもある「人権意識」に関しては、ESD教育を実践していくうえで専門家の方とお話しする機会が多くあり、日本の社会においては希薄で理解されていないと強く感じていました。たとえば中3で行く研修先のニュージーランドの先住民マオリ族と、日本の先住民アイヌに対する「人権意識」を比較すると、「人権意識」が大きく違っていて、権利をもつことの難しさを感じます。日本で希薄な「人権意識」を重要なものと捉え、人権について考えてほしいと思い、出題しました。

今、世界で起きているさまざまな問題には関係せず、自分たちだけで幸せに生きていくこともできると思います。でも、直接関係のない問題でも、考えて、解決して、新しい社会や世界を作っていける生徒を育てたいと思っています。

さまざまな問題を自分事として考えてほしいというのは、ほかの出題からも伝わってきました。これからも続けていかれる予定ですか。

吉田先生 問題解決型の出題は続けていく予定です。今後、重点的にテーマとして取り上げたいのが、「他者性」についてです。“自分とは違う人間とどう生きていくのか”ということを扱いたいと、教科のなかで検討中です。異文化理解の問題点を社会的な状況を絡めて出題したいという思いもありますが、身近な友達などの他者性を含めた問題にして、入試をとおして考えてもらい、さらに入学しても考えてもらいたいと思います。

振り返ってほかに気づいた点や、来年度の変更点などがあったら教えてください。

吉田先生 今回は人権がテーマだとわかりづらかったという反省もあるので、問題を解き進めていくうちにテーマがわかるようにしていきたいと思います。最後のゴールに100字の記述問題があって、そのヒントになることを前の問題のなかに散りばめていくなど、なるべく受験生が答えやすい問題を考えていこうと教科で話し合いました。

印象に残った解答はありましたか。

吉田先生 この問題ではないのですが、「地雷の除去について自分の得意なことを活かして解決策を考えてみよう」といった問いに対して、書道の得意な子が「地雷廃絶の文字を書いて訴える」と書いた解答がありました。短時間のなかで、しかも効果がありそうなことを考えられることはすごいなと思いましたね。このように、受験生がこれまでやってきた勉強や趣味など、自分の経験や積み重ねてきたものを表現できるような問題も出題していきたいと思います。

横浜女学院中学校

横浜女学院中学校

「あきらめない気持ち」が大切

アドミッションポリシーは、どのように入試問題に反映されていますか。

吉田先生 今回のように、素材文は受験生に読んでほしいという思いで選定しています。もちろん、基本的な国語の知識があるかどうかを見たいので、漢字や接続詞、文の部分的な意味を捉えられているか、知識があるのかで評価します。さらに、その知識を使えるか、読んだ文章を使って自分で考えられるか、それを総合的にみるのが100字の記述問題になります。

佐々木先生 あきらめない気持ちを大切にしてほしいのです。今回の100字の記述問題なども、あきらめないで書くことを評価し、加点しています。中間点は算数でも設けていて、極端な例では数式が書いていなくても考え方が合っていれば1、2点つける場合もあります。間違っているかもしれないから書かないというのではなく、途中まででもいいから、とにかく書いてほしいと思います。

大前提は基礎学力をきちんと測ることですが、基礎学力があれば、ほぼ合格します。さらに今回のように、受験生がもっている知識を活用できたり、ひらめきを出していけるような問題を織り交ぜていきたいと思います。

横浜女学院中学校

横浜女学院中学校

インタビュー1/3

横浜女学院中学校
横浜女学院中学校日本プロテスタント発祥の地、横浜山手の丘でキリスト教の教えを柱に校訓「愛と誠」の女子教育による人間教育を実践している。変化の激しい社会に対応ができる力を身につけるために「神様と人に愛されている存在として、自己受容力を高め、多角的かつグローバルな視野をもち、社会貢献を果たすことができる生徒の育成を目指し、「自らを知る」「隣人を知る」「世の中を知る」「自ら行動する」「隣人を愛する」「世の中に働きかける」の6領域とこれらを具体的に実践するための12コンピテンシーを設定し、すべての教育活動を実践している。
コンピテンシーとコンテンツを効果的に結び付けて学力を高めるために2022年度より1時間の授業を65分授業としている。月曜日から金曜日までは5時間、土曜日は3時間(国際教養クラスは4時間)の週6日制を実施。国際教養クラスでは、実際のグローバルトピックにアプローチするCLIL(内容言語統合型学習)を中学3年生より実践し、さまざまなテーマについて教科を横断して学び、「英語で」考える力を身につけている。また、第二学国語(中国・ドイツ・スペイン)も必修とし、言語を通じて文化に触れ、世界への視野を広げるチャンスとなっている。
学校行事や部活動においては、生徒が自ら進んでチャレンジしていく時間となっている。部活動は希望制だが多くの生徒が入部をしている。全国大会で上位入賞するチアリーディング部を始め、ダンス部やバドミントン部、吹奏楽部や書道部などが人気を集めている。学校行事では、体育祭、コーラスコンクール、なでしこ祭(文化祭)は、生徒運営委員を中心に自分の役割に取り組む経験、その責任を果たしていこうとする経験、仲間との大切な時間を過ごす経験など多くの学びを体験できる機会となっている。