学習院女子中等科の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
「平面を立体に、立体を平面にするイメージをつかめる力を問う問題」
まずはこの問題を出題した意図から教えてください。
野本先生 図形の問題は毎年出題しています。この問題は、平面を立体に、立体を平面にするイメージをつかめる力を問いたいと思い、出題しました。こちらとしては、それほど難しい問題という認識ではなかったのですが、正答率は低かったです。逆に、この問題を見てどう思われましたか。
難しいなと思いました。紙を曲げて、上から見ると正方形ですが、実際は違うだろうなと。そこまではわかっても、その先、どうしたらいいのか、悩むのではないかと思いました。
野本先生 おっしゃるとおり、真横から見た半円の図までたどりつかない受験生が多く、FG=15cmで計算している受験生が多かったです。そもそも紙を曲げた時の長さが15cmだということに気づけていないということです。
数学科/野本 悠太郎先生
「正答した受験生は半円の図が書けていた」
図形の中でも、立体になるととたんにできなくなる傾向は見られますね。
長沼先生 いろいろな方向から見なければならないのが難しいのだと思います。
解答の中で印象に残っているものはありますか。
野本先生 できていた受験生は、必ずこの半円の図は書いていました。横から見ることができれば、その後の計算はそれほど難しくないので、半円までたどりついた受験生はほぼ全員、正解していました。
他の問題ではいかがですか。
野本先生 大問1の(2)、計算問題の2番が比較的難しかったようです。大問6(この問題)にまったく手がついていないという受験生はいなかったのですが、FG=15cmで終わっている受験生が多かったです。時間がなくて、考えに至らなかったのかもしれません。
「図形や数論の問題の、難易度が高いのはなぜ?」
点数に必要な要素を教えていただけますか。
野本先生 半円の図が書けて初めて点数が入ります。
そうですよね。他の方法はないかなと探ってみたのですが、ありませんでした。
長沼先生 そうですね。この面で見るということが、答えを導き出すために必要です。
傾向として、図形の問題や数論の問題は、難易度が高いという印象なのですが、それは意識されてのことですか。
長沼先生 毎年、苦労して問題を作りますが、いわゆる公式を当てはめれば解けるような問題は出さないように心がけています。この問題もそうですが、先に問題をきちんと読み取り、多角的な視点から分析して、解法を自分で導き出していくというプロセスをどのくらい踏めるのか。“問題へのアプローチ力”を見られる問題を出したいと思っています。図形分野はおもしろい問題を作りやすいですね。数量分野でもいろいろ試して規則性を発見して、解法を考えていくタイプの問題を出すことが多いです。
「答えに辿り着かなくても、考え方を細かく見て採点する」
どの問題も、式や考え方を残すということでは、情報の読み取りも大切ですが、インプットした情報をアウトプットする力も試されるのかなと思います。
長沼先生 これは数学だけでなく、他の教科でも言えることですね。入試問題を見ていただくと、本校の問題は記述が主になっております。
答えだけを出すというのではなくて、そのプロセスを“自分で表現できる力”も求めています。必ず「どう考えて、どう分析したのか、式でも表でもよいですから、その手だてを書いてください」ということを、学校説明会でお話しています。採点の時には、この受験生は「この表が書けた」、「この式が立てられた」と1行1行細かく見て、採点しています。
受験生の方には、答えまで辿り着かなくても、途中までできていればそこまでの点が入りますので、あきらめずに取り組んでいただきたいと思います。
数学科主任/長沼 容子先生
「子どものアプローチは多彩」
理科、社会でも記述が多いですし、国語などはすごいですよね。
長沼先生 受験生は、それなりの準備をしなくてはならないと思います。
私も採点をすることがありますが、この数値はどこからもってきたのだろう?と疑問に思うことがあります。考え方を書かせるのはいいことだと思います。
長沼先生 本当に、子どものアプローチはこちらの想定を超えることがあります。特に、いろいろな視点で見られるような問題ですと、解法がいろいろあるので、採点には本当に時間がかかります。
「わからない問題に遭遇したら、模型を作ってみよう」
小学校時代にどのような取り組みをすれば、こうした問題を解く力がつくのでしょうか。
長沼先生 うちに小学生の息子がいますので、授業の様子などをよく聞きますが、図形では模型を作るなど、丁寧な指導をしてくださっているようです。そういうことを小学校でたくさん取り入れていただくと、力がつくと思います。
私が学校説明会などでお話する“図形の力を伸ばす方法”の一つは、わからない問題と遭遇した時に、実際に図形の模型を作って考えてみるということです。
「折り紙・ブロック・パズルなどの遊びも理解力に通じるのでは?」
長沼先生 例えば折り紙や、ブロックやパズルなどに親しんでいる子どもは図形の問題に強いと思います。やはり日常生活の中で、「こう見たらどうだろう」「こっちから見たらどうだろう」と、興味をもって見るだけで違ってくると思います。
ですから、わからない問題があった時には、あとで深めてみるゆとりがあると、力がつくと思います。解答を見てもわからないときには、自分で模型を作ってよく調べ、「ああ、なるほど」と理解することが大切だと思います。
立方体を切断する問題がありますが、あれも、例えば消しゴムを切って考えることができます。試験会場ではできませんが、家庭ではできますね。実際にやってみる経験をどこかでしていただくと、だいぶ違うだろうと思います。
「円柱の授業で教科書を丸めた経験がこの問題を生んだ」
野本先生 私が小学生の頃、図形の授業で先生に「円柱を正面から見るとどんな形に見えるか?」と聞かれて、クラス全体の意見が分かれたので「じゃあ、やってみようか」ということになりました。みんなで教科書を丸めてみて「あっ、本当だ。長方形だ」と。そんな記憶から、この問題ができました。
長沼先生 それはいい授業ですね。子どもは実際にやってみて、ようやく納得しますね。
野本先生 長方形と言われてもわからない子はわからないですからね。恐らくこの問題でも半円の図(真横から見た図)まで載せてあげると、多くの受験生は回答できたのではないかと思いますが、あえて載せませんでした。
インタビュー 1/3
1847(弘化4)年、京都で開講された公家の学習所がその起源。1885(明治18)年に華族女学校開校。1906年学習院と合併し、学習院女学部となる。1918(大正7)年に学習院から女学部が分離して女子学習院となる。1947(昭和22)年、宮内省の所管を離れ、私学として現校名に。1999(平成11)年から高校募集停止。
重要文化財でもある鉄製の正門を入ると、四季折々の自然が望める6万6千m2の広大な敷地に中・高等科と女子大学の校舎がある。特別教室は理科、芸術科は科目ごとの専用教室があり、コンピュータ室2つや、2つの体育館、温水プール、テニスコートなど施設も充実。沼津遊泳場など校外施設もある。
官立から普通の私立として再発足してから半世紀を越える歴史をもつ。「広い視野、たくましい創造力、豊かな感受性」を教育目標とし、世界的視野に立って、広く国際社会に貢献できる積極的な女性の育成をめざす。同窓会には皇族妃殿下が名を連ねるが、校内は気取らず明るく活発な雰囲気。
実験や実習を多く取り入れた授業を展開。特に創造性に富む表現力、情報を的確に伝える論理的構成力を育てるため、国語の作文、理科や社会のレポート作成などに力を入れる。中1の国語(古文・表現)、中1・中2の数学(図形)では1クラスを2分割。帰国生を除き、すでに英語を学んでいる初等科からの進学者と中学入学生は中1時に分けて指導し、高等科からは習熟度別授業を行う。高等科ではドイツ語・フランス語も履修できる。高2で文系・理系のコース制を導入。高3では卒業論文を作成。70%程度が学習院大学・学習院女子大学へ推薦入学するが、最近は国公立大や早慶上智大への合格者も伸びている。
校長を科長、ホームルーム担任を主管と呼び、あいさつは、教員、生徒、来訪者の年齢などを問わず、常に「ごきげんよう」である。「ことば」尊重とともに芸術教育も盛ん。道徳の時間には、正式な作法教育も取り入れている。附属戦、林間・臨海学校、運動会、文化祭、スキー教室など行事も多い。クラブは文化部20、運動部11、同好会3と活発。特にテニス、ブロックフレーテ・アンサンブルは好成績を収める。運動部1と文化部1、または文化部2の合計2つまで入部可。オーストラリアの姉妹校メソディスト・レディス・カレッジで英語を学ぶ研修旅行や中3・高2・高3希望者対象のイギリス・イートン校でのサマースクールがある。
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