
山手学院中の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
「数への興味、無限に対してイメージする力、推理する力を問いたかった」
この問題はどのような意図で作られたのですか。
児玉先生 与えられた数字からおぼろげながら見えてくるというか、イメージできる人もいるかもしれませんが。実は1つ1つの数字を単発で見てしまうと、聞かれていることがイメージできないと思います。一般的な算数では2あるいは3ということになると思うのですが、分母に2、分子に4をずっと加えていったらどうなるのか、という数への興味、無限に対して、そこになにがあるのかなということをイメージする力、推理する力を、小学生がどのように発揮していくのかを主に聞きたいと思いました。
75分の119は小数にすると非常に細かいのですが、それが少しずつ2に近づいていることをわかってもらえればいい。例えば2を2億になるまで数を増やした場合、最初の数字(75分の119)は意味があるのだろうかという発想までたどりついてくれたら、素晴らしいと思います。
数学科/児玉 吉弘先生
「小学生の頭は軟らかく、正答率は56%と意外に高かった」
児玉先生 正答率は高かったです。56%が正解でした。もう少し低いかなと思っていたのですが、やはり小学生の頭は軟らかいなと。大人にも聞いてみたのですが、すぐに答えが出る人もいれば、わからないという人も。「3」という答えは小学生にも多かったのですが、大人からも「3」という答えが出てきて、その後「いや2だ」と。しかし今度は「なぜ2なの?」と。そこに考えが及んだようでした。その「なぜ」という部分も、山手学院の数学科が大事にしているところなんですね。
さらに極限、無限の話はとても難しい。例えば0.99999…と続くと1になってしまう。なぜ1になるのか。その答えを数学者が120年くらい前に出したのですが、たとえ証明されていても、自分たちの実感として0.99999…は絶対1を超えないはずなのに、どこかで飛び越えて1になってしまう、ジャンプするというところが非常に不思議なところで、証明されていても違和感が残るのです。中学生まではそのような状態で、高校生になった時に「なぜ」を解明できるような授業をやっているので、このような問題を出しました。
「高校生が同じ問題に取り組むと、難しく考えてしまい意外とあきらめてしまう」
56%の正答率は、先生が予想されたものよりも高かったですか。
児玉先生 高かったですね。粘り強く取り組んだお子さんが多かったということですよね。無答が15%くらいですか?
村上先生 そうですね。無答が一番少なかったですね。答えが「2」ではなかったら、もう少しできなかったかもしれないですね。
児玉先生 そうですね。
村上先生 おもしろいですよね。どこからスタートしても結局2に近づくんですよ。
児玉先生 授業で高校生に出してみたら意外とわからなかったですね。見た瞬間に「難しい」と思ってしまうんです。無限などの話はイコール「わからない」。イメージができない。途中まではやる気があっても、10個くらい書いた時点でいやになってしまう。そういう発想ではなくて、例えば分母(75)に2億足す。分子(119)に4億足せば、なんとなく75とか119というのは無視されるんだなということがイメージできると思うのですが、75分の119、77分の123、79分の127…と1つ1つ見ていくとわからなくなるというのが実感のようです。
これが中1くらいだと、また反応が違うのでしょうか。
児玉先生 違うんでしょうね。関数で2に近づくとか、そういうことを授業でやっていると難しさがより明確になってきて。先ほど0.99999…という話をしましたが。円を三角形で分けてπ(パイ)を数字で出す方法があります。あれも同じで何十万角形にまで増やしていった時に円になるのかというと、これがなるんですね。そういうジャンプする発想が求められるのですが、そこをやっているとこういう問題を見ても「無限? 難しい」という発想になってしまうのかもしれないです。
数学科/村上 卓先生
「視点が部分にいってしまうと見えなくなる」
誤答で一番多かったのは「3」ですか。
村上先生 「1」ですね。たぶん考えているのが、分母も大きくなる、分子も大きくなる。大きい分の大きいで、まあ同じくらいで1なんだろうと、たぶん考えてしまったと思うんですよね。だから「1」が一番多かったと思うのですが。二番目に多かったのは「3」ですね。あとは「100」とか、バラバラです。
その辺になると勘ですね(笑)。3というのも、数字の開きぐあいからして「2」までいかないから「3」くらいじゃないかなとか。そういうレベルではないかと思うのですが。
渡邉先生 やはり視点が部分にいっているから見えないということじゃないですかね。
児玉先生 問題を見た時に全体を見渡す力がほしいなと思います。
そういう力は、やはり中学に入ってから必要になってきますか。
児玉先生 そうですね。注意はしているのですが狭い視野に陥りがちなので、「大きいところを見なさいよ」と言ってテストを受けてもらったりしているのですが。性格もあるのでしょうか。条件を見落としたりすることは多々ありますね。
渡邉先生 この問題は分かれたと思うんです。ポンと書いてしまった子と、計算を書きまくった子と。
児玉先生 そうですね。
村上先生 1個や2個、足していくくらいではわからないんですよね。そこであきらめてしまうと無答になってしまうと思うんです。そこで頑張ってくれるというのが一段階ですよね。だいたいどのくらいになるんだろうなと想像をするのが第二段階。第三段階というのは、先ほど言ったような、分母が20000だったら分子は40000になるだろう。最初の数字は関係なかったと考えるところまでは難しいのでしょうが、20000分の40000だと、2に近づいていくのかなと。
数学科/渡邉 大輝先生
「どうして0.999999…が1なのか」
児玉先生 想定していた解答は、1個ずつ足してみようと。こっちが1000個だったらこっちは…と発想を転換して、というものだったんですよね。
200と400、2000と4000ということはわかりますよね。
渡邉先生 やはり1つずつ足していきますよね。数字が1つ1つ並んでいますから。
テストの点数が高い子ほど、まず手を動かさないで考え込むんですよね。足すわけがないよなと。先ほどの0.99999…が1になるというのも、分数を導入した時に扱うんですよ。例えば3分の1は0.33333…ですよね。それを3倍すると3分の1×3は1だけれども、0.33333…を3倍すると0.99999…だよね、という話を。で、これが同じという話をすると、子どもたちはなかなか納得しないんです。
児玉先生 なるほど。
そこで話し合いをさせることもあります。それは成立するという子と、そうじゃないという子が対決するんですね。両者がいるとおもしろくて、中には絶対に納得しない子もいます。
児玉先生 不思議ですよね。証明されているといっても、どうして0.999999…が1なんだと。境があって、0.999999…というのは1の範囲内なわけですよね。ところが無限という話になるとポンと上に飛ぶ。1以上の仲間に入ってしまうので。
数式上は納得しても、なんだか納得できないところがありますよね。
児玉先生 最初、この問題を出そうかどうか、迷ったんです。無限と考えると、難しいのではないかと。最初は言葉も少し違ったんですね。「近づく」という案もあったのですが、「〇〇よりも大きくなることはありません」というところで、言葉をもう少し加えて、発想させようかというふうになったんです。結果を見て安心しましたけれども…。
こういう力を問いたいということに加え、先生方には試す気持ちもあった問題だったわけですね。
児玉先生 そうですね。皆さんが不思議に思うところだと思いますので。年齢別にやったら、小学生のほうが正答率はいいかもしれませんね。そういう問題は追求してみたいと思います。
「今後もその場で『う~ん』とうなるような問題を出したい」
村上先生 今までは、塾でもやっているんだろうなと思いながら出している問題が多かったのですが、この問題に関しては、たぶん習っていないだろう。その時にどうやって考えるのだろう。そういうところを見てみたかったんですよね。今回、手ごたえがあったので、来年以降も見たことがないような問題、その場で「う~ん」となるような問題をいくつか入れていきたいなと思います。
児玉先生 3年くらい前に問題の傾向を変えたんです。1行問題中心から、大問を多くしたんですね。それは文章をしっかり読んで考える力を問いたいと思ったからです。(1)から(2)(3)…というように、順序立てて解いていくことができるかどうかということも含めて。のちのちは問題1行で、あとは「考えなさい」と書かせるような形にもっていければいいなとは思っているのですが、なかなか難しいでしょうね。
村上先生 10年くらい前は1行問題ばかりで、処理する速さや力が求められていたわけですが、今は少しずつ段階を踏んで、問題数を減らして考える形になってきていますね。
「記述中心の後期日程では発想力や説明する力を見られる問題も出題」
児玉先生 今年は後期日程の最後の記述問題で人口に関する問題を出したんですね。
渡邉先生 日本の人口が1億2千5百万人。その中で自分の性別、誕生日の月日(うるう年も含む)、生まれた都道府県、血液型(A、B、O、AB)、利き腕(左右)、母親の誕生日の月日(うるう年も含む)、その6項目がすべて一致する人が少なくとも2人いる、なぜそのように言えるのかということを説明させる問題を出したのですが。その問題の解釈は難しくて、自分と同じ人がいるかどうかを考えると、いない可能性が高いのです。そうではなくて日本の全人口の中で1組、同じ人が絶対にいるということを、小学生がどういうふうに説明をするのかを聞きたかったわけです。
それは場合の数で考えて、6つの項目をすべてかけ算します。生年月日であれば366をかける。性別であれば男女2通りなので2をかける。血液型なら4をかける…というように全部かけていくと、1億73万というかなり大きな数字になるんです。ということは、6項目すべての組み合わせは1億73万通りしかない。ところが日本の人口は1億2千万人いるわけですから、そこからはみ出た人たちは絶対、誰かと同じ組み合わせにならざるを得ない。それをどういう言葉で説明するのかを見たかったのですが。どうでしたかね、自分の言葉で書けていた子は…。
村上先生 私は採点したのですが、単純にかけ算している子は意外と少なかったです。こちらは単純にかけて、部屋の個数がそれだけあって、あふれる人がいるから、どこかの部屋に入らなければいけない。そうすると2人以上いる部屋ができるから…というふうになるだろうなという想像のもとで作ったのですが。ほとんどの子は確率と同じように何分の何×何分の何×何分の何…というように書いていましたね。発想自体は同じなのですが、そのように書いている子が多かったです。でも、自分なりの表現で、よく書けていましたよ。その問題では発想力と、説明する力を見たかったのですが。
数学科/吉田 大助先生
「途中式を書かせると、子どものいろいろな面が見られる」
渡邉先生 書けない子は「これだけたくさんいるのだからいる」などという算数ではない切り口で(笑)、書いていましたね。そういう意味では難しかったのかなと思いましたが。
後期日程は去年から実施していまして、今年で2回目なのですが、作っている我々も実験的なというか、受験生からどういうふうに反応が返ってくるのか、なかなか読めない中でやっているところがあります。記述問題では、答えが合っていても、途中式がめちゃくちゃだったり、答えを勘で書いているんだろうなという子もいるので、理想をいえばこの問題も途中式を書かせれば、もう少し子どものいろいろな面が見られて、正答率ももう少し下がったかもしれないですね。途中式を書けずに途中であきらめてしまったりする子も出てきたと思うので…。そういう部分はもっともっと見ていけたらいいなと思います。
インタビュー 1/3

戦後、横浜にできた山手英語会を前身とし、1966(昭和41)年、男子校の山手学院中学を開校。69年に高等学校を設置し、同時に男女共学校となった。いち早く国際交流プログラムを導入、中高に選抜クラスや高校に理数コースを設置し、新しいタイプの進学校としての評価を固めている。
「世界を舞台に活躍でき、世界に信頼される真の国際人たれ」を教育目標に、早くから国際交流プログラムを実践し、「国際的なセンスを身につけたスケールの大きな日本人」の育成に力を入れている。自分の興味や関心を深めながら「自ら学ぶことの喜び」と「考え究めていく力」の養成にも努め、未来に向かってはばたく姿を、獅子をかたどった制服の胸のエンブレムに込めている。
丘陵地帯にある6万m2の広さを誇るキャンパスは、樹木と季節の花々に彩られている。本校舎、体育館、テニスコートなどに加え、97年完成の図書室・物理室などを含む特別教室棟が機能的に並ぶ。最新機器を備えたコンピュータ教室、カフェテリア風の食堂、飛び込み台のある屋外プールも自慢。カフェテリア風の食堂は400席あり、自習室としても利用されている。
5日制で週34時間の授業を行い、必要な科目を効率よく配したカリキュラムを組む。英・数の時間数が多く、国・社・理は内容を精選し、高校の授業へとつなげていく。特に英語は週7時間。うち2時間は総合的な学習として、外国人教員が担当する1クラス2分割の少人数制Englishを実施。2010年度入学生より6年一貫コースをスタート。中3・高1では 特進クラス編成および習熟度別授業の実施。高2からは、国公立文系選抜・国公立理系選抜・私立文系・私立理系の4コース制で、各生徒の進路希望に対応する。土曜日は、多彩な土曜講座を開講。
「国際交流」をうたうだけに、国際的な出会いの機会が多い。中3で全員参加のオーストラリア・ホームステイ、高2で全員参加の北米研修旅行がある。カナダなど4カ国を対象にした1年間の交換留学制度もある。校内には海外からの留学生の姿も多く、インターナショナルな雰囲気。国連世界高校生会議への参加、研修旅行の訪問先の生徒が来日するリターン・ヴィジットなども国際交流のプログラムに組まれている。文化系17、スポーツ系20あるクラブ活動も活発で、陸上、テニス、空手、吹奏楽部が知られている。学校生活の問題には、カウンセラー室のスクールカウンセラーが常駐し相談に応じている。