
成蹊中の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
「本物には『おもしろい!』と思わせる力がある」
宮下先生 本物には、好きになったり、おもしろいと思わせる「力」があります。理科に興味をもってもらえるように、授業ではできるだけ本物の題材を使うようにしています。
中1では地球史を学びます。いん石の標本を観察したり、重さを量ったりして、地球の原料であるいん石のつくりから地球がどのように形成されたかを考えます。
通常の中学の教科書では、岩石の種類を紹介して終わりですが、もう一歩踏み込むと、地球の形成という本質まで発展させることができる。本質は中学生にも伝わると思います。自然の仕組みの核心につながっていくとわかれば、小さな石も真剣に見てくれます。
「『なぜ』を突き詰めて本質をとらえる」
保母先生 一般の教科書は“つっこみ”が甘い部分がある。高校になると複雑でわかりにくくなりますが、中学では難しすぎない題材を選んで本質がつかめるようにします。理科は本質までたどりつかないとおもしろくありません。その手前で終わってしまうから覚えるだけの暗記科目になってしまうのです。
生物は花のつくりから学習を始めます。なぜ花のつくりを学ぶのかというと、見分けられるようになるためです。ならば図鑑で調べるところまでやらないと、知識を使わずに終わってしまいます。
また、何のために花は咲くのか、なぜこれだけいろいろな種類があるのかというところまで突き詰めて考えると、受精という生物の本質にたどり着きます。そこで、親の性質を合わせることで子にどんなことを期待しているのかを考えます。
花のつくりで学んだことは、次に学習する動物にも当てはまります。ミミズは雌雄同体ですが、受精が必要です。雌雄同体が有利なのは、出会えばオスメスに関係なく受精できることです。それではなぜわざわざ受精するのかというと、根本は花と同じです。親の性質を合わせることで多様な遺伝子を残せるので、環境の変化などに対応できる。すると進化上の戦略が見えてきます。
生物が進化してきた理由や子孫を残す重要性といった基本概念を構築できると、高校や大学で違う角度から難しいことを学んでも納得しやすい。たとえ戸惑っても基本に立ち返ることができます。
「本質をつかむための情報は必要最低限で十分」
保母先生 生徒は吸収力があるのでいろいろなことを教えたくなりますが、情報が多すぎるとその処理だけでギブアップしてしまう。知識を広げすぎると大切なことが抜け落ちる可能性があり、暗記科目になってしまいます。与える知識は「難しすぎず、広げすぎず」がちょうどいい。本質に行き着くための必要最低限の情報だけを与えるように心がけています。
宮下先生 定期テストのあとで生徒に感想を書いてもらいますが、それを読むと、生徒は本質に気づいてくれていることがわかります。本質は難しいから中学生に教えてもわからないと思いがちですが、伝え方を工夫すれば中学生にも伝わります。
テスト後の感想は、中1は「地球がどうやってできたのかがわかっておもしろかった」など率直な意見を書いてくれます。「この部分は説明が難しくてわかりにくかった」など、授業を改善するうえで大変参考になります。
理科/宮下 敦先生
「卒業して価値がわかる6年間の貴重な経験」
宮下先生 本校の教員はプロ意識が非常に高い。プロフェッショナルが教えているのも本校の伝統です。だからこそ、生徒にいろいろな経験をさせられるのだと思います。
保母先生 理科館や造形館といった専門施設や設備が整っていることも大きい。本物に触れながらしっかり取り組める環境が、生徒の興味・関心を刺激するのだと思います。
宮下先生 工業デザイン系に進学した卒業生が、高2で受講した選択科目の「工芸デザイン」について、「当時はわからなかったけれど、専門課程で学んでみると本当に役に立つ。後輩にそのことを伝えてください」と話してくれました。卒業生から、「あのときの経験が役に立っている」という話をよく聞きます。
保母先生 「大学受験の面接で何を話せばいいでしょうか」と悩む生徒がいます。いままで取り組んできた実験を挙げて、「こんなにやってきたんだから、自信をもって話せば大丈夫」とアドバイスします。生徒は自分たちの経験の価値に気づいていませんが、これだけ実験をしている学校はそうはないと自負しています。
宮下先生 私は母校の大学で理科教育法を指導していますが、本校のように実験や観察の経験が豊富な学生は少ない。理系でも「望遠鏡を使って星を見たのは初めて」という学生が結構います。本校の生徒は全員、望遠鏡を使って天体観測を行います。生徒は当たり前のことだと思っていますが、一つひとつが卒業後の貴重な財産になります。
「将来必要になることの“取っかかり”はつけてあげたい」
宮下先生 生徒はどうしても目の前の大学受験にとらわれて勉強する科目を絞ろうとしますが、全教科の総合力は社会人になってじわりと役に立ちます。理科でいえば、物理だけ、化学だけわかっていても、自然科学の知識としてはつながりません。たとえば医師をめざすのであれば、体のしくみを知るには生物の知識が必要ですし、薬剤は化学の知識が、検査機器の操作には物理の知識が必要です。
保母先生 中高6年間で、大学や社会人になって必要なことの“取っかかり”だけはつけてあげたいと思っています。どうすればいいかわからないと降参してしまうのではなく、中学や高校で学習した「あのこと」から始めればいいと思えるものを残してあげたいですね。
インタビュー 3/3

1906(明治39)年、創立者・中村春二により私塾「成蹊園」が本郷西片町に創立。1924年に吉祥寺に移転し、翌年7年制の成蹊高等学校設立。戦後新制中学・高等学校となり、49(昭和24)年に大学を設立。同じ敷地内に小学校から大学までが並ぶ学園となる。
校名の由来、「桃李ものいはざれども下おのづから蹊(こみち)を成す」(『史記』)に基づいて「個性の尊重」「品性の陶冶」「勤労の実践」を教育理念としている。旧制の7年制高等学校の伝統と理念を継承する。家族的雰囲気のなか、個性重視、自由闊達な校風を保っているのも特色。
学園の正門から中・高正門までのけやき並木が見事。広々とした校内に特別教室棟、理科館、造形館、2棟の体育館などが点在。2008年には新校舎も完成した。けやきグラウンド(ラグビー場)、野球場、サッカー場、馬場などが大学と共用でき施設も十分。
成蹊には「主要教科」という言葉はない。芸術科目や実技教科も含め、長い目で見た発展可能性を重視したカリキュラムを組んでいる。学習状況は年5回の定期テスト、随時行われる小テスト、実験レポートなどの成績により評価される。高2から文系・理系への移行が始まり、英・数は3段階の少人数制授業。高3では進路別に16のコースに分かれ、多彩な選択授業で対応。高校の自由選択の演習では、仏・独・中国語を設ける。成蹊大学へは30%が推薦で進学するが、他大学進学希望者が増えており、東大、一橋大へ一定の合格者を出すほか、早慶上智大、東京理科大などにも多数の合格者を輩出。
静かに目を閉じ精神の集中をはかる「凝念」を行うのが日課で、テストや試合前など自分から自然に行う生徒も多い。クラブ活動は盛んで、全国優勝を果たした男子硬式庭球部、東日本大会優勝のラグビー部、また文化部では都の吹奏楽コンクール金賞の吹奏楽部、自然科学部など29(中学のみ)がある。