
日能研教務部社会科
このコーナーでは、今年度入試に取り上げられた時事的話題や来年度の入試での出題が予想される時事的話題について、不定期的に取り上げていきます。
前回(第2回)のこのコーナーへのアップが7月でしたから、それからずいぶん間があいてしまいました。2010年度入試ももう間近となってきました。その2010年度入試を睨んだときに、この間の大きなできごとといえば、何と言っても8月末の衆議院議員総選挙とその結果による「政権交代」でしょう。そこで今回は、総選挙と政権交代について取り上げてみることにします。
この度の政権交代は、1955年に結党されて以来“一貫して”衆議院第一党として政権の座にあった自由民主党がついにその地位を他党に譲り渡したということであるわけですが、実は、自由民主党は衆議院第一党ということでは“一貫して”いたものの、一度だけ政権の座から降りたことがありました。それは今から16年前の総選挙で議席が過半数割れし、日本社会党をはじめとする6つの政党により連立政権が打ち立てられたときです(ただこのときは、新たな政権与党がいくつもの中小政党の寄り合い所帯であったためか“政権交代”という言葉はあまり使われませんでした)。
この「55年体制の崩壊」といわれた非自民党政権の成立はやはり大きなニュースであったわけで、次の年(1994年)の入試では、それに関する問題がいくつもの学校で取り上げられました。今年の政権交代が入試でどう取り上げられるのかを予想するヒントにもなりますから、このときの入試問題をいくつか紹介してみることにしましょう。
まずは連立内閣発足までの経緯をまとめた表を使った出題から見ていきます。
| 月 日 | で き ご と |
|---|---|
| 6月18日 | 衆議院本会議で(A)( 1 )内閣の不信任決議案を可決。 衆議院の解散。総選挙実施へ。 |
| 7月 4日 | 第[ a ]回衆議院議員総選挙の公示。定員[ b ]人 |
| 18日 | 総選挙実施。即日(そくじつ)開票。(B)自由民主党過半数確保できず。 |
| 22日 | ( 1 )首相退陣(たいじん)を正式に表明。 |
| 8月 6日 | (C)( 2 )国会を召集(しょうしゅう)。衆議院議長,副議長の選出。衆・参本会議で首相指名 投票の実施。( 3 )党の細川護熙(もりひろ)を第79代首相に指名。 |
| 9日 | (D)細川連立内閣が発足 |
(1994年 世田谷学園中学校)
はじめの表からこのときの連立政権誕生は、衆議院における内閣不信任案の可決にはじまったことがわかります。不信任決議を受けたのは宮沢内閣で、ときの通常国会で最大の課題とされていた衆議院の選挙制度改革が不首尾に終わった責任を問われたということになっています。それが6月18日で、同日内閣はただちに衆議院の解散、総選挙を行って民意を問うことになりました。
ここで、日本国憲法第69条を思い起こしておきましょう。
第69条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
これによれば、内閣不信任が決議されたときに内閣がとれる道は2つあって、その1つが内閣総辞職、もう1つが衆議院の解散であるわけですが、日本国憲法の下で現在までに内閣不信任が決議された4回のうちいずれの場合も衆議院の解散が選択されています。ちなみに、衆議院解散の決定権が内閣にあるというのは、次の憲法条文に基づくものとされています。
第7条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左(下記)の国事に関する行為を行う
(中略)
3 衆議院を解散すること。
(後略)
また、衆議院の解散に関しては、次の憲法条文が重要です。
第54条
衆議院が解散されたときは、解散の日から40日以内に、衆議院議員の総選挙を行い、その選挙の日から30日以内に、国会を召集しなければならない。
1993年の場合、内閣不信任が決議された30日後に総選挙が行われました。その結果自由民主党の議席が過半数に達することができなかったわけですが、そのときの自民系と非自民系の議席数の比較を日能研ブックス『’93重大ニュース』から引用しておきます。

自民系、非自民系を合わせると511議席になりますが、それがこのときの衆議院の議員定数だったからです(現在は480議席でしたね)。そして、この総選挙の日から20日後に特別国会が召集され、日本新党代表の細川護煕(もりひろ)さんが第79代の内閣総理大臣に指名されました。
なお、このときの自民党の過半数割れの副産物として日本社会党の土井たか子さんが憲政史上初の衆議院の女性議長となったことも話題になりました。また、内閣総理大臣指名で細川さんに対抗して首相指名にのぞんだのは自民党の新総裁は河野洋平さんでした。さらに新内閣で副総裁および外務大臣となったのは、衆議院解散後に自民党を離党した人たちによって結成された新生党の羽田孜(はたつとむ)さんでした。
この連立政権発足に関する問題をもう1つ見ておきましょう。
次の文章を読んで,あとの問に答えなさい。
1993年7月に
衆議院の総選挙が行われました。投票率はおよそ67%でした。総選挙が行われた理由は,衆議院が解散されたためです。これは,
内閣不信任決議が可決され,内閣が( 1 )せず,衆議院の解散を選択したためです。
総選挙の結果は,これまで政権を担当してきた( 2 )が過半数を獲得できずに野党となり,それにかわって連立政権が誕生しました。そして( 3 )の党首が
内閣総理大臣に指名されました。今回の選挙では新しい政党から多くの人びとが当選しました。これも,大きな特徴です。新しい政権が国民に約束しているものに( 4 )があります。その背景には,政治の世界をわかりやすく,汚職のないものにしていきたいという国民の強い声があります。
(1994年 桐蔭学園中学校)
ここにあげた2つの入試問題から、来年度入試で問われそうなことがほぼ見えてくるように思います。
まず、衆議院の解散や衆議院議員総選挙に関する憲法条文上の基本的な数字をおさえておかなければなりません。
次に、2009年の衆議院議員総選挙におけるいくつかの数字です。そこで、まず今年の総選挙から新内閣誕生までの経緯を、先の問題風に表にまとめておきましょう。
| 月 日 | で き ご と |
|---|---|
| 7月21日 | 麻生太郎内閣が衆議院を解散 |
| 8月18日 | 第45回衆議院議員総選挙の公示 |
| 8月30日 | 総選挙実施。即日開票。民主党が単独で過半数を獲得。 |
| 9月16日 | 特別国会を召集。衆議院議長、副議長の選出。衆・参本会議で首相指名。 投票の実施。民主党の鳩山由紀夫を第93代の内閣総理大臣に指名。 民主党・社会民主(社民)党・国民新党との連立による鳩山内閣が発足。 |
次に、衆議院議員総選挙の結果です。

そして、次に人物です。今回の衆議院解散から新政権誕生までの(入試出題予想の意味から)マークしておくべき人物をあげてみましょう。
これらの数字や人物をふくむ予想問題は、本屋さんに並んでいる『2009重大ニュース』を見てもらうこととしましょう。
衆議院議員総選挙においてはもう一つ確認しておくべきことがあります。それは選挙制度についてです。いうまでもなく現在の衆議院の選挙制度は、小選挙区比例代表並立制とよばれるものです。この「並立制」というのは、小選挙区制と比例代表制の二本立てで行われるしくみで、ただし両方の選挙への重複立候補も認められています。
ここでは、先にもあげた衆議院の小選挙区と比例代表のそれぞれの定数、重複立候補と拘束名簿式の意味、比例代表制でとられているドント式による議席配分の仕方などがポイントになります。
そこで、前(2007年第5回)にも一度取り上げましたが、参議院も含めた選挙制度についての出題例を1つ見ておくことにしましょう。
次の表を見て,あとの問いに答えなさい。
| 衆議院 | 参議院 | |
|---|---|---|
| 全国を300に分けた小選挙区制 | 選挙区 | 都道府県単位の選挙区制 47選挙区(73人) |
| 全国を11ブロックに分けて各党 の得票に応じて当選者を配分 重複立候補可 |
比例代表 | 全国単位で各党の得票数を集計し て当選者を配分(48人) 重複立候補は不可 |
| 重複立候補に限り名簿に同一順位 で候補者名を記載できる |
比例名簿 | 名簿には順位をつけずに記載 |
問1 小選挙区制の特徴として誤っているものを1つ選び,記号で答えなさい。
ア 1つの選挙区から1人を選出する制度。
イ 選挙区が狭いので選挙費用が節約される。
ウ 死票(落選者に投じられた票)が多くなることがある。
エ 多数党がでて,政局(せいきょく)が不安定になることがある。
問2 衆議院の場合,比例代表で何人選ばれますか。
問4 比例代表制の場合,ドント式で各政党に当選者数を割り振ります。ドント式のルールを読んで,次の問いに答えなさい。
ある選挙で,A党が2000票,B党が700票,C党が300票の得票をしたとき,この選挙区で6人の当選者を出す場合,A,B,C各党の当選者はそれぞれ何人になるか計算しなさい。
(2006年 文教大学付属中学校)
以下、この問題を取り上げたときの説明と重なりますが、日本では1983年から参院選で取り入れられるようになった比例代表制というのは、政党の得票数に比例して代表者を選出する方法です。その具体的な方法についてはこれまでいくつものやり方が考案されてきましたが、現在の日本で採用されているのは「ドント式」とよばれるものです。ドント式というのは、ベルギーの政治学者ヴィクトール・ドント(1841-1901)が考え出した方法なのでこの名があります。その原理は問題中にあるように、各党の得票数を1、2、3、・・・という自然数で順に除していき、その商の大きい順に議席を与えていくというものです。
衆院選に取り入れられている比例代表制では、議席数480のうちの300を定数1の小選挙区からの選出として、あとの180を全国を11のブロックに分けたブロックごとの比例代表選挙によるものとしています。また、参院選の比例代表制では、改選議席数126のうちの48を比例代表選挙によるものとして、残る76を各都道府県を1選挙区とする選挙区選挙によって選出しています。
先の問題例の表中には「比例名簿」という項目もありますが、これは中学受験生にとっては少し複雑にすぎるので問いとしてはふれられていません。現在は、衆院選では名簿の上位から順に当選者を決める「拘束名簿式」が、参院選では候補者名簿に順位をつけず、個人の得票順に当選者を決める「非拘束名簿式」がとられています。また、衆院選では小選挙区選挙との重複立候補が可能で、その重複立候補者については同一順位で名簿にのせることができます(その当選順位は、各候補者の小選挙区選挙における当選者に対する得票の割合で決定されます)。
比例代表制には死票(落選者に投じられた票)が少なくなり、少数者の意見を反映する機会が与えられやすくなるという長所がある反面、少数政党が乱立して政治が不安定になりやすいという短所があげられます。それと対極なのが小選挙区制で、こちらは死票が多くなり、少数者の意見が反映されにくくなるため少数政党には不利で、二大政党体制が生まれやすくなるといわれています。ただ、前回および今回の衆院選の結果などを見ると、むしろ一党支配体制が生まれやすくなるようにも思えますが。
最後に、前回2005年の衆議院議員総選挙(小泉純一郎さんのいわゆる「郵政選挙」)において、自民党が圧勝した翌年に出題された入試問題から、選挙制度について取り上げたものを1つあげておくことにします。
次の文章を読み,各問いに答えなさい。
郵政民営化関連法案の国会決議をめぐり,(
)は5票差とかろうじて通過したが,(
)では否決された。両院で評決が異なった場合はお互いの代表が(
)を開いて意見の調整をするが,今回,a 首相はすぐに(
)を解散して2005年9月11日にb 総選挙を実施した。色々と話題を呼んだ総選挙であったが予想以上に自由民主党が絶対安定多数の269議席を大きく上回る296議席に連立する公明党31議席を加えて3分の2を超えた。自由民主党にはc 83人の新人議員も誕生した。d 9月21日からの国会で再度郵政民営化関連法案を提出し,両院ともに可決されて郵政民営化が正式に決まった。
| (ア) 選挙 | (イ) 小選挙 | (ウ) 大選挙 | (エ) 比例代表 |
| (オ) 拘束名簿 | (カ) 非拘束名簿 | (キ) ドント | (ク) 4 |
| (ケ) 6 | (コ) 8 | (サ) 20 | (シ) 25 |
| (ス) 30 | (セ) 貴族院 | (ソ) 参議院 | (タ) 衆議院 |
| (チ) 両院協議会 |
問5 下線部bの選挙の時,最高裁判所の裁判官の名前の入った用紙でも投票しました。
これを何というか。漢字4字で答えなさい。
問6 下線部cの自民党新人議員を報道機関ではまとめて何と読んでいますか。
問7 下線部dの国会について下記の質問に答えなさい。
(2006年 帝京中学校)
