
日能研教務部算数科 真藤 啓
中学受験算数の根っこの部分とか背景といったものがしっかりわかるようにすることを漠然と目標にして、思いつくまま書いています。ざっと読んでこれを参考に自分でも何か考えるようにすると、力がつくと思います。
また、1つのテーマについて、くわしく、系統的に説明したりしていきたいと思います。
たとえば、中学入試の難問を細かくステップを踏んで解説したりしていこうと思います。
中学入試に限らず、中学入試につながりそうな高校入試や大学入試あるいは、その他の問題に対しても、取り扱おうと思います。このことは近未来の中学入試の予想にもなると思っていますが、近未来どころかすぐに追いつかれているような現状です。
また、次の3つの「算数エッセー」の補足も加えます。
『進学レーダー』3月号(みくに出版) 算数エッセー「算数好きになるくすり ピックの定理」
『キッズレーダー』3月号(日能研) 算数エッセー「おいしい算数 鬼谷算(きこくさん)」
『学校選択』3月号(全国中学入試センター) 算数エッセー「算数好きのきっかけをもとめて 三角形の合同」
2×2、3×3、4×4、……などのように、同じ数を2個かけ算することを平方(へいほう)すると言います。平方のことを、2乗(じょう)とか自乗(じじょう)ということもあります。
2の平方は4、3の平方は9、4の平方は16、……のようにいうこともあります。
平方という言葉は、中学入試に出てくることもありますが、広さの単位に「平方メートル」などもあり、それほど違和感がないかもしれません。
自然数(0より大きい整数)を2個かけ算した答えの数を平方数ということもあります。物を正方形状に並べてできる数なので、四角数ということもあります。
逆に言うときには、平方根(へいほうこん)という言葉を使い、2は4の平方根、3は9の平方根、4は16の平方根、……のようにいうこともあります。記号√(ルート)を用いて、
2=
、3=
、4=![]()
と表すこともあります。
2×2×2、3×3×3、4×4×4、……などのように、同じ数を3個かけ算することを立方(りっぽう)すると言います。立方のことを、3乗(じょう)ということもあります。
2の立方は8、3の立方は27、4の立方は64、……です。
立方という言葉は、中学入試にあまり出てきませんが、体積の単位に「立方メートル」などもあり、あまり違和感がないかもしれません。
自然数(0より大きい整数)を3個かけ算した答えの数を立方数ということもあります。
逆に言うときには立方根(りっぽうこん)とか3乗根(じょうこん)という言葉を使い、2は8の立方根、3は27の立方根、4は16の立方根、……のようにいうこともあります。記号
(りっぽうこん)を用いて、
2=
、3=
、4=![]()
と表すこともあります。
シンガポールに住む中国人の学校では、小学校で平方や平方根、立方や立方根が学ばれています。といっても、簡単なものだけで、たとえば、
平方 22=4、32=9、42=16
平方根
=2、
=3、
=4
立方 23=8、33=27、43=64
立方根
=2、
=3、
=4
などに限られていて、この位に限るなら日本の小学生でも簡単に理解できるでしょう。実際、中学入試問題にも実質的には出ています。ただし、こうしたことを習っていると、自分で
について考えたり理解したりする人も出るように思います。
現在、中学入試に
の意味を知らないと解けないという問題は出ませんし、ましてや答えに
が残るような問題は出ません。しかし、
を知っている方がずっと見通しがよくなるという問題もときどき出ます。
一応、
について説明しますと、1辺1の正方形の対角線の長さは
です。単位をつけていうと、たとえば、1辺1cmの正方形の対角線の長さは
cmということになります。また、1辺
cmの正方形の面積は2cm2です。なお、この1辺1cmの正方形の対角線を1辺とする正方形の面積は2cm2です。
ということ自体はかなり昔(むかし)から中学入試では常識です。

正方形は、長方形とひし形の両方の性格がありますので、長方形と見たときには、
(長方形の面積)=(たて)×(横)
という公式ではたての辺も横の辺も同じ長さなので、
(正方形の面積)=(1辺)×(1辺)
となり、ひし形と見たときには、
(ひし形の面積)=(一方の対角線)×(他方の対角線)÷2
という公式では2つの対角線は同じ長さなので、
(正方形の面積)=(対角線)×(対角線)÷2
となります。というわけで、正方形の面積を求めるときに、
に触れない方の公式を選んで面積が求められるのです。
注意
中学入試で
というものを知らないと解けないという問題は出ません。また日能研の授業の中で
について指導することはありません。
本稿は、「算数の学習」でなく、いわば「算数の遊び」ですので、気楽に読み飛ばしてほしいと思います。
根(こん、あるいはルート)
「根(こん)」あるいはルートのもともとの意味は植物の根(ね)という意味です。ルートの複数はルーツで、物事の起源とか、先祖などの意味に使われます。
シンガポール
シンガポールという国は、一党独裁的な政治になっているため、余り重要な法案でなくてもあっさり可決します。だから、たいしたことでもないようなことで重罪になったりしますから、そういうことには注意したほうがよいでしょう。貿易が盛んな国ですので、非常に儲かっているようで、頭がよくて要領のよい人にとってはシンガポールはとてもよい国だということです。以上は現地のガイドさんの話です。
球
立方体に内接する球を1つの面に平行な面で切ると円の積み重ねのようになります。
円柱1
立方体に内接する円柱を1つの面に平行な面で切ると円の積み重ねのようになります。
円柱2
立方体に内接する円柱を1つの面に平行な面で切ると長方形の積み重ねのようにもなります。
球はどこから見ても円に見え、円柱は円にも長方形(正方形)にも見えますから、見かけによらない観点ではありませんね。
練習問題1
1辺2cmの立方体を内接する2円柱があるとき、2円柱ともの交わりの立体の体積を求めなさい。
解法
立体「2円柱交差」を水平面で切ると、切り口は正方形になる。
立体「2円柱交差」は正方形の積み重ねとみられる。
一方、2円柱にともに内接する球の切り口は円になる。
「2円柱交差」と「球」の各高さの切り口の「正方形」と「円」では、面積比は常に「4:円周率」になるので、
![[解法]](../../../images/column/essay/sansu/10_m03/1003_0208.gif)
したがって、体積比も
![[解法]](../../../images/column/essay/sansu/10_m03/1003_0209.gif)
「2円柱の交わりの体積」:「球の体積」=4:円周率
となります。球の体積は
球の体積=
×円周率×半径3だから、
「2円柱の交わりの体積」=(
×円周率×13)×
=![]()
答え ![]()

立体「2円柱交差」の表面は、2つの円柱の表面を分け合います。
これに関連する問題が今年2010年灘中に2日目4番に出ていますが追ってお話しすることになると思います。
練習問題2
1辺2cmの立方体を内接する3円柱があるとき、3円柱ともの交わり(共通部分)の立体の体積を求めなさい。
解説
「3円柱交差」は、「2円柱交差」の4つのでっぱりを削(けず)ったものと言えます。したがって、「2円柱交差の名残(なごり)」を残します。逆に「3円柱の内接する小さな立方体」の6面に「2円柱交差の名残」をくっつけたものと見ることもできます。また、「3円柱交差」の表面は、3つの円柱の表面を均等に分けあうということにも着眼してください。

この、6つある「2円柱交差の名残」の1つの体積を求めるには
内接する「球の一部の体積」に
を掛ればよいのです。

ここで、「率」と書いたのは、たぶんわかると思いますが「円周率」の略です。今後も同じです。
解法
「球の一部」と「円錐の一部(円錐台)」の和が「円柱の一部」ですから

![]()
![]()
![]()
「3円柱の交わりの1部分(2円柱交差の名残)」=
×率×
=![]()
「3円柱の交わりの体積」=
×6+
×
×
=16-8×![]()
答え 16-8×![]()
が最後まで残りますので、
を使わない解法はできません。したがってこれは中学生なら解けますが、ふつう、小学生には無理ということになります。
2010年の灘中1日目の11番なども
を知っていた方が見通しがよくなるようにも思えます。無理に覚える必要はありませんが、余力のある人は算数遊びとして知っておいてもよいかもしれません。
問題3
1辺2cmの立方体を内接する3円柱でくりぬいたとき、くりぬいた体積を求めなさい。
(2010年 東工大特別入試(2009年11月1日実施)午後2番改題)
解法
「3つの円柱の体積の和」からダブっている「2円柱の交わりの体積」を3つひくと「3円柱の交わりの体積」が相殺(そうさい)されてしまうので、改めて加えるとよいです。
すなわち、
「求める体積」=「円柱の体積」×3-「2円柱の交わりの体積」×3+「3円柱の交わりの体積」
となります。ここで、
「円柱の体積」=2×円周率
です。
「2円柱の交わりの体積」=![]()
「3円柱の交わりの体積」=16-8×![]()
ですから、
求める体積=2×率×3-
×3+16-8×
=2×率-8×![]()
答え 6×率-8×![]()
だだし、ここでは、率は円周率を表します。
実際の大学入試ではかけ算に演算記号×は省略して、円周率はギリシア語の円周の頭文字πを使って
答え 6π-![]()
のように表します。
付記
「相殺」は「打ち消しあう」という意味で使いました。「そうさい」と読みます。特別な読みとして知られています。知らないと、「そうさつ」と誤読することで知られている字です。
実際の「2010年東工大 特別入試(2009年11月1日実施)」は次のようです。高校生(大学受験生)が解くとしたらあとの略解のように解くのがよいかと思います。
問II-2
yz空間内の3つの部分集合。
A={(
,y,z)}||
|≦1,y2+z2≦1}
B={(
,y,z)}||y|≦1,
+z2≦1}
C={(
,y,z)}||z|≦1,z2+y2≦1}
の和集合A∪B∪Cの体積を求めよ。
(2010年 東京工業大学特別入試(2009年11月1日実施)午後2番)
略解
実質的には、前節「問題3」と同じことです、高校生(大学受験生)向けに解いてみましょう。
8半分の部分の各円柱が通らない部分の体積は、1つの小立方体と3つの合同な「凹んだ四角錐」に分けられる。
![[略解] 2010年 東京工業大学特別入試(2009年11月1日実施)午後2番](../../../images/column/essay/sansu/10_m03/1003_0501.gif)
よって、「凹んだ四角錐」の体積は

「小さな立方体」の体積は(1-
)3だから、
8半分の部分の各円柱が通らない部分の体積は
![]()
=1-
+
πこれを、1から引いて8倍すればよいから
-6π (Ans)
【補足】
記号の多い数式なので、この原稿をHTML文に直してくれる、WEBの編集者が悩むと思いますので多少はしょっています。実際の試験では、途中の計算をもう少し丁寧に書くとよいでしょう。
要するに、
を利用して解いています。
途中、高校の数学IIIの置換積分を使っていますので、数学IIIの教科書程度の知識が必要な解法です。
小学生には、これを具体的に解くことではなく、立体図形をイメージする練習に良いのではないかと思い取り上げました。
「数学IIIの置換積分」を回避して、前節のように中学生的にも解けるところが面白いと思います。というわけで一応書きましたが、この解法は小学生に向けたものではありません。
ネライが似ている円柱と角柱の問題が2010年北嶺中の5番で出ました。算数好きの小学生には切なくなるような感動的な問題だと思います。ぜひ味わってほしいと思います。
問題
![[問題] 2010年 北嶺中5番](../../../images/column/essay/sansu/10_m03/1003_0601.gif)
次に,これらの円柱と直方体が図のように,円柱の底面の中心A,Bを結ぶ直線(ア)と,直方体における正方形の中心C,Dを通る直線(イ)が垂直に交わるようにして重なっており,円柱と直方体の共通する部分としてできる立体をPとします。いま,円柱を固定し,直方体が直線(イ)を軸として回転したあらゆる場合を考えます。このとき,4点A,B,C,Dを通る平面で立体Pを切ったときの切り口の面積は,直方体が回転すると変化します。次の各問いに答えなさい。ただし,正方形の中心とは対角線の交点です。
(2010年 北嶺中5番)
解法
(1)
![[解法] 2010年 北嶺中5番](../../../images/column/essay/sansu/10_m03/1003_0602.gif)
なので、円柱の底面の半径×半径は
半径×半径=6.28÷3.14=2(cm2)
(2)
![[解法] 2010年 北嶺中5番](../../../images/column/essay/sansu/10_m03/1003_0603.gif)
なので、4=2×2だから、2cm
(3)
![[解法] 2010年 北嶺中5番](../../../images/column/essay/sansu/10_m03/1003_0604.gif)
![[解法] 2010年 北嶺中5番](../../../images/column/essay/sansu/10_m03/1003_0605.gif)
![[解法] 2010年 北嶺中5番](../../../images/column/essay/sansu/10_m03/1003_0606.gif)
この柱体の底面積は
2+6.24÷2=5.14
高さは2cm
5.14×2=10.28(cm3)
答え (1) 2cm2 (2)2cm (3) 8cm2 (4) 10.28cm3
付記1
いい問題ですねえ。この問題は
を使うともう少し見通しがよくなり解きやすくなりますが、あえて
を使わないようによけながら解くところに(というか解けるところに)面白さがあるように思います。
また、この問題は立体交差の様子を水平面での切り口を通してとらえさせようという、大学入試にも通じる視点も養われます。
前述の2010年東京工業大学特別入試(2009年11月1日実施)午後2番の解法の視点をかなりかぶっているようにも見られます。同学の問題の小学生版といった印象です。
付記2
北嶺中は首都圏ではまだあまりなじみのない人も多いと思いますが、順調に進学実績を伸ばしていて、4年前くらいから注目されるようになった北海道(札幌市清田区)の男子進学校です。
各塾での合格偏差値がまだ緩めですが、早晩、かなりの難関校になりそうです。
| 大学名 | 年度(平成) | 累計 | |||||
| 16年度 | 17年度 | 18年度 | 19年度 | 20年度 | 21年度 | ||
| 東京大学 | 9 | 9 | 14 | 7 | 10 | 11 | 106 |
| 京都大学 | 2 | 1 | 3 | 2 | 18 | ||
| 北海道大学 | 16 | 23 | 19 | 27 | 24 | 27 | 289 |
| 札幌医科大学 | 6 | 4 | 5 | 6 | 9 | 9 | 67 |
| 旭川医科大学 | 2 | 2 | 3 | 3 | 5 | 9 | 55 |
| 東北大学 | 1 | 3 | 3 | 4 | 2 | 1 | 27 |
現在試験場は本校・旭川・帯広・仙台の4会場ですので、首都圏からは少し受けにくいのですが、そのうち、東京会場、大阪会場などができるのかもしれません。
鬼谷算
鬼谷算とは、紀元前の中国の劉邦(りゅうほう)に仕える韓信(かんしん)という大将軍が、人数を報告するときに暗号として使った方法から始まったという、伝説の算法です。韓信については「史書」にもあり、よく知られていると思いますが、軽く触れてみます。
跨下之辱(こかのじょく)
韓信は、おさないころ両親を失って、とても貧しかったのでした。おもに魚を釣って、それをお金に換えて生活をしていましたが、あまり釣れませんでした。大家さんにただで住まわせてもらっていましたが、おまえは見込みがないから出て行ってくれと追い出されました。
いつも、川で洗濯していたおばあさんから、おにぎりをもらって暮らしていました。あるとき、おばあさんは「これからは、もうここには来られなくなったので、これからは自分で食べて行きなさいね」と言いました。韓信は、「今までどうもありがとうございました。きっと、出世してご恩返しをします」と言うと、そのおばあさんは「かわいそうだから上げていただけ。一人前の男が、自分で食べることができなくて、何がご恩返しができるもんか」と言って帰って行きました。
また、あるとき、非行少年がみんなの前で韓信を辱めました。「おまえは、大きくて、剣を持っているが胆っ玉はとても小さいだろう。度胸があるなら、俺を刺せ、でなければ俺の股をくぐれ」と言われ、韓信は言われた通り、股をくぐります。韓信はそのとき、大望ある身なので、「ならぬ堪忍(かんにん)するが堪忍(できない我慢をするのが我慢)」と言ったそうです。
大勢の見物者はみな大笑いしました。
【補足】 大丈夫(だいじょうぶ 一人前の男)
「一人前の男」と訳したところは、中国語の原文では「大丈夫(だいじょうぶ)」となっています。
つまり、「大丈夫」という中国語は、日本語の「一人前の男」の意味になります。日本語の大丈夫とずいぶん違いますね。このように中国語と日本語では、同じ言葉が全然違う意味だったり、似たような意味でも意味の深さが違ったりするようです。
たとえば、日本の工場によくある「油断大敵」などの張り紙をみると、中国人はおおげさな表現に感じてぎょっとするそうです。あと、これは中国に行くと大抵のガイドさんが説明してくれる言葉ですが、日本でいう「乗用車」は中国語では「汽車(きしゃ)」、日本の「汽車」は中国では「火車(かしゃ)」といいます。
「日本の汽車は中国では火車といいます。かしゃ、火の車です。日本の火の車とは全然違いますね。ハハハ」とおかしそうに中国人のガイドさんは笑います。初めて中国に行った日本人はいつもここで大笑いするので、自分も先に笑ってしまうのでしょう。
中国の躍進がめざましいので、今の小学生が大人になるころには、直接・間接的に中国の人との関係が今よりももっと強くなるように思います。また、古い中国文化は、日本文化に深く根ざしていますので、多少関心を寄せた方がよいかと思います。なお、故事成語「跨下之辱(こかのじょく)」は日本では「韓信の股くぐり」ということが多いかと思います。
国士無双(こくしむそう)・百戦錬磨(ひゃくせんれんま)
やがて、韓信は項羽(こうう)に仕えます。出世を狙って、項羽にいろいろな策を献じますが、項羽は無視して、門番とか炊事係などをさせました。それで、ここにいても出世は望めないと思った韓信は今度は劉邦(りゅうほう)に仕えます。しかし、ここでも雑用係でした。
ところが、劉邦の重鎮(じゅうちん)である直属上司の粛何(しょうか)が親しく交際してくれました。まもなく、粛何は韓信が並外れた人物であることを知ります。
粛何は劉邦に韓信のことを「国士無双(こくしむそう)」(ただ一人の素晴らしい人物)と評し、漢がこのままでよければ、韓信は不要ですが、もっと大きくすることを望むならば韓信が不可欠ですと進言します。
こうして、韓信は劉邦の大将軍となり、いろいろな軍略を使って百戦錬磨の活躍をします。
故郷にかえり、洗濯のおばあさんには大金をやり、おびえる元非行少年には、「そなたのおかげで、今の私がある」と言って中尉として召抱え、大家には、ただ百銭だけ与え、「面倒をみるなら、最後まで面倒をみよ」と言いました。以上が史書に伝わる韓信のあらましです。というか、この後ももっと、ありますが、話がややこしくなるのでこの辺までとします。
このお話は有名なので、大人の人ならたいてい何度か聞いたことがあって、「ならぬ堪忍するが堪忍」ということばとともに覚えている人が多いと思います。
鬼谷算 ~3つの数から人数を知る方法~
……古い中国の中の小さな国「漢」の優れた大将に名を韓信という人がおりました。彼は、毎回、部隊の集会をして、人数を報告するときに、その人数が3で割っていくつ余るか、5で割っていくつ余るか、7で割っていくつ余るか、の3つの数を報告しなさいと言っていました。
ただし、0は使いません。3の倍数の場合には3、5の倍数の場合には5、7の倍数の場合には7、と言います。
1から3までの数と、1から5までの数と、1から7までの数との3つの数の組み合わせで、彼はすぐに実際の人数を知ったそうです。人々は、3つの数から人数を知る方法を鬼谷算といいました。
付記
鬼谷算(きこくさん)は中国読みではグェクウサンのように読むようです。というかうまくカタカナになりません。それで、はじめ「おにたにざん」と読み仮名をふろうと思ったのですが、WEB上で鬼谷算命学(きこくさんめいがく)という占い関連の記事をいくつも見かけたので「きこくさん」という読みが日本では通りがよさそうだと考えたものです。
鬼谷算命学とは中国思想の原点「陰陽五行説」に基づいた、中国の古くからの「占い」をいうようで、古代中国の戦略家、鬼谷子によって編みだされたようです。ここでいう、「鬼谷算」とは無関係のようです。
ただ語源的には関連するかと思います。そして「鬼谷算」とは「ふしぎな計算」というニュアンスなのだと思います。
鬼谷という地名が古代中国にあったようです。場所は、洛陽市と鄭州市の間の登封市で、現在少林寺などで知られているところのそばにありました。

剰余定理 (じょうよていり)
やがて、鬼谷算は普遍的に洗練され、剰余定理となりました。剰余定理は今日、世界で「中国の剰余定理」といわれています。西洋のガウスの数論に通ずるものでした。
なぜわざわざ「中国の……」というかというと、(ドイツが世界に誇る数論で名高い数学者の)カール・フリードリヒ・ガウス(1777年4月30日 - 1855年2月23日)はまたの名を「19世紀最大の数学者」と言われているように、19世紀の人ですが、その数論の核心的な剰余定理が中国で紀元前に知られていたことがわかったからなのです。
やがて、明の時代になって、程大位(ていだいい)という数学者があらわれ、『算法統宗(さんぽうとうそう)』という本を書き、鬼谷算の意味を詩にしました。
三人同行七十稀、五樹梅花廿一枝,
七子団圓月正半,除百零五便得知。
(3人の70歳のお年寄りが並んで歩いている。5本の梅に21本の枝、7個のだんご、十五夜の月、105をひくとわかりうる。)
この詩は、鬼谷算の解法のヒントであり、結局「3で割った余りに70をかけて、5で割った余りに21をかけて、7で割った余りに15をかけて、その三数の和から105を、ひけるだけひくと、人数が求められる」ということを意味します。
この歌は南宋の周密(1232-1298)が書いた『志雅堂染抄』の鬼谷算の解説の次の歌をなどをつくりかえたものと考えられます。ただし、似たようなものが他にもあります。
“三歳孩児七十稀,五留廿一事尤奇。
七度上元重相会,寒食清明便可知”
(『志雅堂染抄』周密(1232-1298))
この詩の補足をしますと、上元は15、寒食清明は105を表します。
上元とは、1月15日をいいます。ちなみに中元とは7月15日で、下元とは10月15日をいいます。ただし、ここで、上元とは単に15を表します。寒食(清明節)は冬至から105日の節日。中国のウィキペディアによれば、寒食祭は冬至から105日目で、清明節の1日前とあります。が、それはとにかく、ここでは寒食清明は105を表します。(でないとつじつまが合いません。)
『算法統宗』はやさしい問題は簡単に解説し、難しいいくつかの問題に対しては、解法を書かずにこのようにヒントの詩を載せました。
ここで、思い出しますのは、昔、「赤胴鈴之助」という映画だったと思いますが、剣道の先生は極意を詩にして鈴之助に伝えます。鈴之助は詩の意味を考えながら修業をします。やがて、極意を見出し詩の意味に気付きます。
芸事などでも、極意は難しい詩で表現したりする習慣は日本にも残っているようです。難しいことは、言葉で簡単に説明しても、求める心が熟していないと、伝えられないということなのでしょう。本稿は極力わかりやすく書こうと心掛けていますが、わからないところで、わかりたいという、気になることは、自分でも試行錯誤するなりして、求める心を熟させて読むとわかりやすくなるのかもしれません。
それとも詩にしたほうがよいでしょうか。
さて、程大位の『算法統宗』は、それまでの中国にもともとあった、算数の面白いところを取りまとめただけのものでしたが、たちまちまれにみる一大ベストセラーになり、中国に算数ブームを巻き起こしました。日本の貿易商の角倉家(すみのくらけ)も入手し、数学が好きだった角倉家一族の吉田光由(みつよし)少年の手にわたりました。
遺題継承 (いだいけいしょう)と和算 (わさん)
光由は『算法統宗』を読んで感動しました。そして、日本の日常生活に合うように書き換えて、寛永4年(1727年)、『塵劫記(じんこうき)』を発行したところ大人気になりました。挿絵も豊富な美しい木版画の本なので、算数が分からない人でもつい買ってしまったのではないでしょうか。近松物などの流行文学を押さえ、一大ロングベストセラーとなり、日本に算数ブームを巻きおこしました。やがて、この本を読んだだけで算数塾を開く者があらわれたり、いいかげんな類書もたくさんあらわれたので、手を焼いた光由は、寛永18年の11月にそれまでよりかなりレベルの高い『新篇塵劫記』を刊行します。
巻末に遺題と称する問題を12問載せ、これには答えを載せませんでした。
「これが解けてから塾を開け」というわけです。
ところが、刊行してから12年後の承応2年(1653)、遺題を解説する書があらわれ、その書には、さらに難しい遺題を載せましたので、そのまた解説書があらたに遺題を載せるという、いわゆる遺題継承という現象を起こし、算数は日常生活とは離れ複雑に高度化しました。そして延宝2年(1674)に、沢口一之の「古今算法記」の遺題15問を解いた関孝和の「発微算法」が発表され、中国や西洋の数千年の数学に一部追いつくといった急成長を遂げたのでした。今日、塵劫記を超えた、日本独自の算数を「和算」と呼ばれています。
参考文献
『新篇塵劫記』のあとがき (東北大学図書館 藤原集書 001)
http://www2.library.tohoku.ac.jp/wasan/wsn-imgm.php?id=000243&km=155
鬼谷算の種明かし
3で割った余りに70をかけるというときの70ですが、5と7の公倍数で、3で割って1余る最小の数が70なのです。
(3で割った余り)×70 ……3で割った余りは変わらずに、5や7で割った余りが0の数になる。
また、21は3と7の最小公倍数で、5で割って1余る最小の数です。
(5で割った余り)×21 ……5で割った余りは変わらずに、3や7で割った余りが0の数になる。
さらに、15は3と5の最小公倍数で、7で割って1余る最小の数です。
(7で割った余り)×15 ……7で割った余りは変わらずに、3や5で割った余りが0の数になる。
最後に、105というのは、3と5の7の最小公倍数3×5×7=105なのです。
だから、3で割った余りに70をかけて、5で割った余りに21をかけて、7で割った余りに15をかけて、その三数の和から、105をひけるだけひくと、ちょうど、問題に当てはまる最小の数が求められるわけです。
例題
3で割ると1余り、5で割ると2余り、7で割ると3余る最小の数を求めなさい。
解法
![[解法]](../../../images/column/essay/sansu/10_m03/1003_0703.gif)
答え 52
(例題の別解)
7で割ると3余る数は3、この3に次々に7を加え、
3、10、17、……
のうち、5で割ると2余る数は、17
7で割ると3余り、5で割ると2余る数は17、17に7、5の最小公倍数35を次々に加え、
17、52、87、……
のうち、3で割ると1余る数は、52
(答え) 52
初めて教えるときには、この別解で説明するのは普通でしょう。
何度か同じ方法で教えたころ合いで、「鬼谷算」の解法を教えると、何か感じる人がいるでしょう。
中国の歴代の数学者は、これをいっぺんに教えてしまっては、しっかりとは身につかないから、次のようなヒントの詩を与え、学習者のわかろうとする心を熟させようとしたのでした。
3人の70歳のお年寄りが並んで歩いている。
5本の梅に21本の枝、
7個のだんご、十五夜の月、
105をひくとわかりうる。
「鬼谷算」は、日本では「百五減算(ひゃくごげんざん)」といわれています。
「七十稀」はキッズレーダーでは「70歳のおじいさん」と訳しましたが、稀は「まれ」という意味の文字で、ここでは「七十歳」のことで、一般には男性とは限りません。この語の起こりは、のちの人に「詩聖」と呼ばれた、中国盛唐の詩人である杜甫(とほ)の作った、次の『曲江』という七言律詩(定型詩の一形態)の第四句、「人生七十古来稀」によるものです。
曲江 杜甫
朝回日日典春衣、毎日江頭尽酔帰
酒債尋常行処有、人生七十古来稀
穿花蛺蝶深深見、点水蜻蛉款款飛
伝語風光共流転、暫時相賞莫相違
詩文中、蛺蝶とはヒオドシチョウ、蜻蛉とはトンボのことです。
![[解法] 2010年 北嶺中5番](../../../images/column/essay/sansu/10_m03/1003_0704.jpg)
ヒオドシチョウ
「人生七十古来稀」という文字は、「人生、七十、古来、まれなり」と詠み、「人生で、70歳まで生きるのは、むかしから珍しい」という意味ですが、この詩には、もっと深い悲しみが込められています。しかし、この詩をしっかり味わうには、同じ「曲江」という題のもう1つの律詩や、このときの時代と特に杜甫を取り巻く状況を把握する必要があり、長くなるので、割愛します。
長寿の祝いには、古稀(こき)70歳のほか、還暦(かんれき)61歳、喜寿(きじゅ)77歳、傘寿(さんじゅ)80歳、盤寿(ばんじゅ)81歳、米寿(べいじゅ)88歳、卆寿(そつじゅ)90歳、白寿(はくじゅ)99歳、百寿(ももじゅ)100歳などがあります。
関孝和(1640?~1708)は、おとなが読んでいる『塵劫記』を借りて、みんな解けたのですぐ返したと伝えられていますが、もとになる、『算法統宗』の方は、よく読んだかもしれません。
関孝和の『括要算法』の亨巻(こうのまき) に次のような記述があります。『括要算法』は元巻、亨巻、利巻、貞巻の4巻からなり、亨巻とは第2巻ということにあたります。

日能研研究開発本部蔵書『関孝和全集』(「大阪教育図書」版)より
ところで、ここに引用されている孫子歌ですが、
七子団円正半月
となっています。私は、『キッズレーダー」では
七子団圓月正半
としましたが、現在、中国のWEBサイトで、小学生向けのものは「七子団圓月正半」となっていて、一般向けのものは「七子団圓正半月」となっていますので、おそらく、出典では「正半月」だと思いますが、中国では、小学生向けとしては、「月正半」の方が「15」と気付きやすいことになっているかと思います。
現在、日本のWEBサイトには、「鬼谷算」という記述はほとんどありませんが、唯一、田辺寿美枝(たなべすみえ)氏の「関孝和の翦管術 其の二(数学史の研究)」がありますのでリンクしてご紹介します。田辺氏は現在、聖心女子学院高校の教諭で、この方面の専門研究者のようです。
この中で、氏は、
関をはじめ当時の和算家達が『楊輝算法』、『算法統宗』の2 冊の算書を学習し、少なからず影響を受けていたことは確かであるといえよう
といっていますが、確かな視点だと思います。
参考文献
『関孝和の翦管術 其の二(数学史の研究)』数理解析研究所講究録 田辺寿美枝(たなべすみえ)氏
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/58644/1/1513-11.pdf
参考文献
三人同行七十稀 『括要算法』の亨巻(こうのまき)
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/wa0/image/wa0hf/wa0h0042.html
京都大学理学部数学教室所蔵
矩形数とは、「連続する2つの自然数の積」を言います。「2からの偶数の累加」でもあります。連続する2つの自然数は「互いに素」であることに着眼できないと、大変な試行錯誤が必要になることがあります。このことを2009年浦和明の星女子中の問題にそって考えてみましょう。
矩形数の性質
矩形とは、長方形のことで、矩形数は長方形数ともいわれます。しかし、一般の長方形ではなく、たてと横の長さの差が1の長方形なので、あえて普段使われない矩形という語を使うことも多いのです。
さて、矩形数の性質としては、「連続する2整数の積」、「2からの偶数の累加」、「三角数の2倍」などが従来の小学生の守備範囲という感じでした。
▼「連続する2つの自然数の積」

▼2からの偶数の累加

▼三角数の2倍

連続する2整数は「互いに素」
1から順に自然数を書き並べると、2つごとに2の倍数が並び、3つごとに3の倍数が並び、(1以外の)何の倍数であっても、隣り合わせに同じ自然数の倍数が並ぶということはありません。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、……
言い換えると、連続する2整数は1以外に公約数を持ちません。このことを、「互いに素」になるといいます。そのことが、問われるようになっています。
2009年 浦和明の星女子中1番(4)
東京大学(2006年)、桜蔭中(2008年)の入試問題については、昨年WEBで述べましたが、2009年浦和明の星女子中では、次のように出題されました。
問題
(2009年 浦和明の星女子中1番(4))
略解
100=2×2×5×5ですから、少なくとも一方が2の倍数で、少なくとも一方が5の倍数です。連続する整数は「互いに素」ですから、両方2の倍数で、5の倍数であるということはありません。したがって、少なくとも一方が4の倍数で、少なくとも一方が25の倍数です。4と25の公倍数は3桁になりますので、一方が4の倍数で他方が25の倍数です。
したがって、「2桁のある奇数」は25か75に限ります。25や75のうち、1を加えたときに4の倍数になるものを探します。
25+1=26=4×6+2
75+1=76=4×19
となり、求める「2桁のある奇数」は75にきまります。
答え 75
付記
連続する2整数が「互いに素」になるということの説明は先の通りで、このこと自体はあまり難しいこととは思えませんが、案外、とっさには思いつきにくいのではないかと思い、また、結構中学入試に出るようになったので述べてみました。
この第7節は、「学校選択」の3月号の「予備原稿」として書いたものです。「学校選択」の締め切りが1月20日ということで、1月入試の問題が間に合ってしまったので、また、今年の問題で取り上げたい問題も多そうなので、一方、それにしてもミスミス没にするのは惜しいと思い、ここに掲載するものです。
というわけで、今年2010年の1月入試を見ていると、いろいろ面白い問題が目移りしました。しかし、1題を選ぶなら、やはり灘中のものをみんなが見たいのではないかと思いました。
ところで、灘中1日目の10番を見て驚きました。
そのとき、WEBにアップ掲載中の『ナポレオンの定理』に同じ趣旨の問題を扱っていたからです。本稿は、かなりの入試問題を的中させていますが、実は的中ではなく学校側が、面白がって合わせてくれているのではないかと思っていましたが、これはまさに偶然的中してしまったのです。
ただし、受験生の方も、「あした、灘中の試験だ。さて何を勉強しようかなあ。そうだこういうときは、WEBで調べてみよう」なんていう子はいないでしょうから、実効のない的中でした。
「三角形の合同」に関するよくある応用問題の1つに「1頂点を共有する2つの正三角形」に関する問題がありますが、灘中が出す場合はこういう風に出します。
先月号の『ナポレオンの定理』でも述べたのですが、「1頂点を共有する2つの正三角形」があるとき、ほかの頂点どうしを結んでできる2つの三角形は合同で、60°回転した位置関係にあります。
練習問題
次の図で三角形ABCと三角形ADEは正三角形です。このとき、三角形ABDと三角形ACEは合同になることを説明しなさい。
解法
三角形ABDと三角形ACEで、
ABとACの長さが等しい。(同じ正三角形の辺)
ADとAEの長さが等しい。(同じ正三角形の辺)
角DABと角EACの大きさは等しい。
(ともに、角DAC+60度になるから。)
よって、三角形ABDと三角形ACEは、対応する2組の辺とその間の角が等しいので合同である。
(説明終わり)
問題の周辺
こういうことは、たいていの塾で学んでいて誰でも知っていると思います。それどころか、このとき、先生は、「三角形ABDと三角形ACEは60度回転している位置関係になるんだよ」などとを言っている場合もあるかと思います。しかし、案外こうしたことを聞きもらしたりする人が少なくないのではないでしょうか。
答えが○か×かにだけ注目し、ほかのことには関心を持たない学び方をしている人がいます。
しかし、入試問題自身が、そうした学習を警告する場合もあるように思います。2010年の灘中の問題を見てみましょう。
よくある問題をただ解くだけではなく、ちょっとだけ深い学びを心がけておきましょうと、この問題も言っているように思います。というか、灘中の問題はもともと概してそういう問題が多いようです。
問題
![[問題] 2010年 灘中1日目10番](../../../images/column/essay/sansu/10_m03/1003_1002.gif)
(2010年 灘中1日目10番)
解説
![[解説] 2010年 灘中1日目10番](../../../images/column/essay/sansu/10_m03/1003_1003.gif)
答え (1) 4cm (2) 83度
この問題は、昨年(2009年)の「回転線を横から見る」にも関連します。
「進学レーダー」では、「ピックの定理」について述べてみました。「ピックの定理」に結び付けて解ける問題は中学入試にはとても多いのですが、しかし、ほとんど「ピックの定理」を知らなくても解ける問題です。「ピックの定理」を知っていた方が有利と思える問題は非常にまれです。したがって、よほど興味を持った人以外は、受験対策として、
![]()
という式があるということを覚えておくくらいでよいと思います。
例

15+7÷2-1=17.5
さて、「ピックの定理」の証明ですが、「算数的帰納法(数学的帰納法)」を使います。論理的には述べられるのですが、読んでも、なお実感としてはすっきり納得できない人も多そうなので省略します。ぜひ、知りたい人は、すでに、WEB上にたくさんありますので調べてみてください。
さて、現在、中学入試が続々と入ってきていますが、少し整理して、おいおい、お伝えしたいと思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
